養子縁組制度の内容

養子縁組は、法律上の手続きによって、
血縁上の親子関係がない者同士に、親子関係を生じさせる制度で、
- 特別養子縁組
- 普通養子縁組
があります。
特別養子縁組

特別養子縁組は、主に養子の福祉増進を図るため、
家庭裁判所の審判により成立し、
養子縁組が成立すると、実親との親子関係が消滅し、
両者間の
- 相互扶養義務
- 法定相続権
は認められなくなります。
※ 戸籍には、「養子」と記載されず、「長男・長女」などと記載されます。
大きな特徴としては、
- 養子の年齢に制限がある(原則15歳未満:令和元年6月改正、令和2年4月1日施行)
- 養子縁組の解消は、原則、認められない
という点が挙げられます。
普通養子縁組

普通養子縁組は、
- 養親が成人している
- 養子は、養親(または養親の尊属)より年少
- 養親と養子間の合意がある
- 養子や養親に配偶者がいる場合は、配偶者の合意がある
という要件を満たせば、
家庭裁判所の審判が無くても、成立します。
ただし、
- 自己の直系卑属
- 配偶者の直系卑属
以外の未成年者を養子とする場合には、
- 配偶者とともに、養子縁組をする
- 家庭裁判所の許可を受ける
必要があります。
孫を養子にする場合、
孫は、自己または配偶者の直系卑属であるため、
家庭裁判所の許可は不要で、
孫が未成年者の場合は、
本人に代わって、
法定代理人(親権者または未成年後見人)が、養子縁組の承諾をすることになります。
普通養子縁組は、特別養子縁組とは異なり、
養子縁組が成立しても、実親との親子関係は消滅せず、
- 実親
- 養親
の両方との間で、
- 相互扶養義務
- 法定相続権
が認められます。
※ 戸籍には、「養子」と記載されます。
また、
大きな特徴としては、
- 養子の年齢に制限はない(養親よりも年少)
- 養子縁組の解消は、原則、認められる
という点が挙げられます。
相続を念頭においた、孫との養子縁組では、一般的には、普通養子縁組の方法が採用されます。
孫を養子にすることのメリット
1.相続税を減額できる

孫と養子縁組をする最大のメリットは、相続税を減額できるということです。
養子となった孫は、実子と同様に、
法定相続人の1人として取り扱われるので、
相続税の計算において、以下の4点に影響を及ぼします。
※
法定相続人については、
「相続人と相続分|法定相続人と法定相続分」をご確認ください。
(1) 相続税の基礎控除額
相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」ですので、
孫が養子となることにより、
相続税の基礎控除額を、600万円増やすことができ、
この600万円に対応する相続税を減額することができます。
(2) 生命保険金の非課税限度額
生命保険金の非課税限度額は「500万円×法定相続人の数」ですので、
孫が養子になることにより、
生命保険金の非課税限度額を、500万円増やすことができ、
この500万円に対応する相続税を減額することができます。
※
生命保険金については、
「生命保険金|相続税法上の取扱いと非課税」をご確認ください。
(3) 死亡退職金の非課税限度額
死亡退職金の非課税限度額も「500万円×法定相続人の数」ですので、
生命保険金の非課税枠と同様の効果をもたらします。
※
死亡退職金については、
「死亡退職金|相続税法上の取扱いと非課税」をご確認ください。
(4) 相続税の税率
相続税は、
相続税課税価格から相続税の基礎控除額を控除し、
これを、相続人それぞれの法定相続分で按分し、
それぞれの按分額に、その按分額に対応する税率を乗じて計算します。
法定相続人が一人増えると、上記の按分額を減額できるので、
それに伴い、相続税の税率も緩和することができます。
2.相続を一世代飛ばすことができる

本来、祖父母の財産は、
相続により、その子供へ移り、
その子供の相続により、2段階で孫へ移ってくるものですが、
祖父母が、孫を養子にする場合には、
祖父母の財産を、孫へ直接移すことができるため、
子供の相続において、祖父母の財産を、相続財産に含めなくてよいことになり、
相続を、1段階(一世代)飛ばすことができます。
したがって、
★ 先祖代々に渡って引き継いでいくべき財産がある場合などには、孫の同意を得て、あえて孫に相続させることも、一考に値します。
また、
不動産登記も、1回分飛ばすことができるため、
相続税ばかりでなく、登録免許税も減額できるというメリットもあります。
相続税法上の人数制限

民法では、人数に制限なく、孫を何人でも養子にすることができます。
しかしながら、
相続税の計算においては、養子に人数制限がなければ、
養子にすればする程、相続税を減額することができ、
租税回避行為に繋がる可能性があるため、
その防止として、
法定相続人の人数に含めることができる孫養子の数は、
- 故人に実子がいる場合:1人まで
- 故人に実子がいない場合:2人まで
に制限されています。
なお、
- 故人の配偶者の実子で、養子となっている子供
- 特別養子縁組により、養子となっている子供
- 故人と配偶者の結婚前に、配偶者が特別養子縁組により養子としていた子供で、故人と配偶者の結婚後に故人の養子となった子供
- 故人の実子、養子または直系卑属が既に死亡しているか、相続権を失ったため、その者に代わって相続人となった直系卑属
は、故人の実子として取り扱われるため、
相続税の計算においても、
人数制限はなく、すべて法定相続人の人数に含まれます。
※ 上記の代襲相続人となった直系卑属を養子にした場合には、
その直系卑属は、
- 代襲相続人としての法定相続分
- 養子(子)としての法定相続分
の双方を有することが、通達により確認されています。
孫を養子にすることのデメリット
1.孫の相続税が、2割加算される

相続税法では、
- 配偶者
- 一親等の血族(代襲相続人となった直系卑属を含む)
以外の者の相続税には、
その2割を加算することが定められていますが、
上記の一親等の血族には、
故人の直系卑属で、故人の養子となっている者は含まれないと定められているため、
孫を養子にした場合、
孫が代襲相続人でない限り、孫の相続税には、その2割が加算されます。
したがって、
★ 孫が相続により取得する財産は、少なめに設定した方が有利となります。
※
養子にする孫が未成年の場合には、
遺産分割協議に、特別代理人が同席する必要があり、
特別代理人は、孫にとって不利な合意をすることができませんので、
孫に財産を相続させないような遺産分割は、認められません。
2.孫に、遺留分が生じる

遺留分は、民法上の法定相続人のうち、兄弟姉妹以外の者、
具体的には、
- 配偶者
- 子供(子供が亡くなっている場合には、その者の子供)
- 父母・祖父母などの直系尊属
に認められており、
相続または遺贈により、遺留分を下回る財産しか取得できなかった上記の者は、
遺留分侵害額請求を行うことにより、
遺留分に相当する財産を、確保することができます。
※
遺贈については、
遺留分と遺留分侵害額請求については、
「遺留分と遺留分侵害額請求」をご確認ください。
孫を養子にした場合には、
養子となった孫にも、この遺留分が生じる
ことになります。
孫を養子にする時点で、このことが問題になることは少ないと思いますが、
その後、相続が開始した時点で、相続人間の関係が良好でなくなった場合には、
養子となった孫の遺留分が、円満な相続の妨げになる恐れがあります。
また、
複数の孫のうち、一人だけを養子にしている場合には、
養子となった孫は、最低でも遺留分に相当する財産を取得することができるため、
養子になっていない孫との間に、どうしても不公平感が生じ、
このことが、親族間紛争に繋がる可能性もあります。
3.未成年者である孫に、混乱を与える

未成年者の孫を養子にし、その実親が生存している場合には、
両者間の利益が相反する事柄に対して、
実親は、その未成年者の法定代理人として、財産上の手続きや相続上の手続きを行うことができなくなり、
それらの手続きを行う特別代理人を、家庭裁判所に選出してもらわなければなりません。
また、
養子縁組によって、孫の姓(苗字)が変わってしまうこともあるため、
未成年者である孫が、これらの養子縁組に伴う状況を理解できずに混乱し、その成長に悪い影響を及ぼす恐れもあります。
孫を養子にしない方が良いケース
1.相続財産が、基礎控除額より少し多い程度である場合

相続財産が、相続税の基礎控除額より少し多い程度である場合には、
★ 法定相続人でない孫に、生前贈与を行うなど、他の方法を選択した方がよく、
あえて孫を養子にするには及びません。
※
生前贈与については、
「暦年贈与|メリット・デメリットと間違えない暦年贈与の方法」をご確認ください。
2.孫が、未成年者の場合

上記にあるように、
孫が、未成年者の場合には、
その者を養子にすることに対しては、慎重な判断が求められます。
また、
家庭裁判所に、特別代理人選出の審判証明書を発行してもらうまでには、かなりの時間を要することが多いため、
その発行が、相続税の申告期限までに間に合わずに、
遺産分割が、調わなくなる恐れもあります。
したがって、
孫が、未成年者の場合には、養子縁組を控えておき、孫が成人になってから、養子縁組を考える
のも、一つの方法です。
※
相続税の未成年者控除についても、
「相続税の未成年者控除|民法改正後の内容です」にて、ご確認ください。
3.相続人(兄弟姉妹)間で争いの恐れがある場合

例えば、
故人の配偶者が亡くなっており、相続人は子供2人だけの場合で、
故人が、どちらかの子供の子供(孫)を養子にしたときは、
その養子縁組により、
本来2分の1ずつであった子供の法定相続分は、3分の1(子供2人、孫それぞれが3分の1)になります。
そうなると、
養子縁組を行った方の親子(子供と孫)は、併せて3分の2の財産を取得することになり、
両者間には、明らかに不公平感が生まれます。
事前に、孫には財産を相続させない合意をしておくなどにより、
この不公平感を解消している場合は、問題ありませんが、
そうでない場合には、
不公平感を伴う養子縁組は、控えた方が得策
と考えます。
養子縁組の解消

孫との養子縁組には、上記のようなデメリットもあるため、
養子縁組を解消したいという考えになることも、少なくありません。
このような場合、
普通養子縁組であれば、養子と養親が同意をして、養子離縁届を提出することによって、養子縁組を、解消することができます。
しかしながら、
すでに両者が対立している場合など、
片方が、養子縁組の解消を求めても、
他方が、これに同意しない場合があります。
そのような場合には、裁判で争うことになりますが、
裁判において、養子縁組の解消が認められるのは、
- 一方から、悪意で遺棄された
- 一方の生死が、3年以上明らかでない
- その他、縁組を継続し難い重大な事由がある
場合となっていますので、
その解消には、縁組を継続し難い重大な事由が必要
ということになります。
あとがき

祖父母の方々は、
孫に対しては、子供と同様の愛情がありますので、
相続税を減額できるならば、喜んで孫を養子にしようという考えを持つ方も多いと思います。
しかしながら、
租税回避のみを目的にして、養子縁組が行われた場合には、その養子を、相続税の計算上、法定相続人の数に含めない
こととされています。
つまり、
節税目的であることが、あからさまに分かるような養子縁組は、
税務調査で、否認を受ける恐れがあり、
否認を受ければ、相続税ばかりか、延滞税や加算税も支払わなければなりません。
※
相続税の延滞税と加算税については、
「相続税・贈与税の延滞税と加算税」をご確認ください。
なお、
平成29年1月31日の最高裁判決では、
「相続税の節税のために、養子縁組が行われたとしても、そのことで、養子縁組がただちに無効となるわけではない」
という判断を示していますので、
- 民法上の養子縁組
- 税務調査での否認
は、切り離して考えられているということになります。