
贈与(生前贈与)には、
- 暦年贈与
- 相続時精算課税
の2通りがありますが、
今回は、暦年贈与について解説します。
※
相続時精算課税については、
「相続時精算課税制度|メリット・デメリットと選択すべきケース」をご確認ください。
暦年贈与とは

暦年贈与とは、暦年(1月1日~12月31日)ごとの贈与で、年単位で、110万円の基礎控除が認められています。
同一年中に、複数の者から贈与を受けた場合は、
すべてを合計して110万円を数えます。
また、
同一年中の贈与が110万円を超える場合には、
超えた部分に対して、贈与税が課税されます。
(110万円以下の場合は申告不要)
※
暦年贈与の贈与税計算方法については、
「国税庁のホームページ」をご確認ください。
暦年贈与のメリット
1. 長期に渡って、税負担なく、資産を分与できる

暦年贈与の最大のメリットは、
年ごとに110万円まで、
- 長期に渡って
- 税負担なく
他者に資産を分与できる点です。
2. 相続時の争いを防げる

生前に財産を贈与しておくことにより、相続人間の相続争いを防ぐことができます。
※ 相続時精算課税と共通の生前贈与のメリットです。
ただし、
受贈財産は、
- 特別受益
- 遺留分侵害額請求
の対象となりますので、
相続争いを確実に防げるという訳ではないことも、心にお留め置きください。

【特別受益】
特別受益とは、
他の相続人に比して、
生前または遺贈により、特別に受けた利益をいいます。
※
遺贈については、
「遺贈|包括遺贈と特定遺贈,条件付遺贈と負担付遺贈」をご確認ください。
生前贈与が特別受益とみなされると、
- 贈与者の相続財産へ持ち戻され、
- 贈与者の相続において、遺産分割の対象となります。
※ 故人は、特別受益の持戻し免除を、遺言により意思表示することができます。
※
特別受益については、
「特別受益|民法の定めと税法の定め」を、
遺言については、
「遺言|遺言の要式と撤回、デメリット」をご確認ください。

【遺留分侵害額請求】
- 配偶者
- 子供(子供が亡くなっている場合は、その者の子供)
- 直系尊属
は、遺留分侵害額請求を行う権利を有していますが、
侵害額の計算においては、
相続財産に、
- 特別受益
- 下表の生前贈与

を含めて、遺留分を計算します。
※
遺留分の算定においては、
特別受益の持戻しは免除されません。
※
遺留分と遺留分侵害額請求については、
「遺留分と遺留分侵害額請求」をご確認ください。

【詐害行為取消請求】
- 贈与前に、贈与者は債務を負っていた
- その返済を免れるために贈与を行った
- 上記を、贈与者と受贈者の双方が知っていた
- 詐害行為取消請求時に、贈与者は無資力であった
上記のすべてに該当する場合には、
債権者は、裁判所に、詐害行為取消請求を行うことができます。
贈与の取消が認められると、
- その贈与は、なかったこととされ、
- 贈与された財産は、贈与者に戻り、負債の返済原資とされます。
3. 相続税課税価格を減額できる

賃貸不動産のように、収益を生み出す財産の生前贈与を行えば、
相続までの間に生み出される収益の累積分だけ、相続税課税価格を減額することができます。
また、
贈与者の課税所得が、受贈者の課税所得より高い場合には、毎年、両者の所得税率の差額分だけ、所得税をも節税できることになります。
※ 相続時精算課税と共通の生前贈与のメリットです。
4. 孫への暦年贈与のメリット

孫への暦年贈与は、
子供世代への財産移転を一世代省略でき、その移転財産に対応する相続税を節税できます。
暦年贈与のデメリット
相続の場合より税負担が増す

生前に不動産を受贈する場合には、相続する場合よりも、不動産取得税と登録免許税の税負担が大きく設定されています。
※ 税率については、下表参照


したがって、
生前に不動産を受贈しようとする場合には、
この点もよく検討する必要があります。
※ 相続時精算課税と共通の生前贈与のデメリットです。
間違えない暦年贈与の方法

暦年贈与を間違った方法で適用すると、贈与の有効性を失ってしまうため、以下の点に注意が必要です。
1. 受贈事実の認識と受贈財産の帰属

贈与者が、
- 受贈者に知らせることなく贈与契約書を作成し、贈与をしたことにしている場合
- 受贈者の預金口座に毎年110万円以下の金額を振込み、その通帳・印鑑・キャッシュカードを保管している場合
などには、贈与が成立したことにはなりません。
このような場合は、
- 贈与者が、自分の財産を、他人に預けているだけとみなされ、
- それらの財産は、贈与者の相続財産となります。

贈与を成立させるためには、
- 受贈者が、受贈事実を認識し、
- 受贈財産が、受贈者のもとに帰属する
必要があります。

そのためには、
- 贈与契約書を作成する
- 現金での贈与は避ける
- 名義変更をする
ことが、最低限必要で、
さらに、
受贈財産が、受贈者のものとなっている実態を、
客観的に証明できるようしておきましょう。
(1) 贈与契約書を必ず作成する

暦年贈与を行う際は、
- 贈与を行った日付
- 贈与者の氏名および住所
- 受贈者の氏名および住所
- 贈与した財産の内容と金額
を明記した贈与契約書を作成し、
贈与者と受贈者の双方が、自署・押印します。

さらに、
公証役場で確定日付を押して貰えば、
その贈与契約が、確定日に存在していたことを、
確実に証明できます。
ただし、
契約内容の有効性が、証明されるわけではありません。

【確定日付】
- 数百円の手数料を払えば、その場で押印してもらえる
- 当事者以外でも持参可能
- 身分証明等は提示しなくてよい

なお、
幼児の孫に暦年贈与を行う場合には、
贈与契約書に、孫の親権者の署名・押印が必要です。
その場合、
孫の親権者が、受贈財産を管理することになりますが、
親権者は、受贈財産を私的に使用してはいけません。
(2) 現金での贈与は避ける

金銭贈与であれば、現金でのやり取りを避け、必ず預金口座へ振り込みます。

その際、
- 贈与契約書に記載している「贈与を行った日」に
- 贈与者の預金口座から受贈者の預金口座へ
- 通帳に、それぞれの氏名が印字されるように
直接振込を行います。
※ 振込手数料は、贈与者負担で問題ありません。

また、
受贈者の預金口座は、
受贈者が
- 普段から金銭を出し入れし、
- 通帳・印鑑・キャッシュカードを管理している
口座を使用します。
(3) 名義変更をする

受贈財産が、
- 不動産
- 有価証券
- 自動車
などの登記(または登録)財産である場合には、必ず名義変更を行います。
2. 毎年、同時期に、同じ者に対して、同額の贈与を行わない

国税庁のホームページには、以下のようなQ&Aが掲載されています。
Q.毎年100万円ずつ10年間に渡って贈与を受ける場合、各年の受贈額が110万円以下の基礎控除額以下ですので、贈与税がかからないことになりますか?
A.各年の受贈額が110万円の基礎控除額以下である場合には贈与税がかかりませんので申告は必要ありません。
ただし、10年間に渡って毎年100万円ずつ贈与を受けることが贈与者との間で約束されている場合には、1年ごとに贈与を受けると考えるのではなく、約束した年に「定期金に関する権利(10年間に渡り毎年100万円ずつの給付を受ける権利)」の贈与を受けたものとして贈与税がかかりますので申告が必要です。
国税庁 タックスアンサー
上記のように、
- 毎年
- 同時期に
- 同じ者に対して
- 同額
の贈与を行えば、
事前に、ある程度まとまった財産の贈与が約束されていたという印象を与えかねません。

ただし、
必ず否認されるのではなく、
暦年贈与を認めた方が、贈与税の納税額が多くなるような場合には、
あえて否認されないケースもあります。
とはいえ、
税務署から指摘を受けることはできるだけ避けたいので、

- 毎年
- 同時期に
- 同じ者に対して
- 同額
の贈与を行うのは、避けた方が得策です。
金融商品を利用した暦年贈与
1. 信託を利用した暦年贈与

信託銀行では、暦年贈与信託という商品が提供されています。
暦年贈与信託では、
- 贈与を受けるかどうかの確認
- 贈与契約書の作成
- 財産の移転
などの受贈者との間の手続きを、信託銀行が代行してくれます。
ただし、
この場合も、
- 受贈額が110万円を超えるときは、贈与税を申告する
- 受贈財産を受贈者に帰属させる
必要があります。
2. 生命保険を利用した暦年贈与

生命保険会社でも、暦年贈与を念頭に置いた商品が提供されています。
(1) 生前贈与機能付き生命保険
生前贈与機能付き生命保険は、
- 贈与者が、生命保険に加入し、
- 受贈者が、毎年生存給付金を受け取る
という生命保険契約です。
この契約については、
事前にまとまった金額の契約を行うため、契約時に「定期金に関する権利」の贈与を受けたものとみなされないか
という疑義がありますが、
- 給付金は、贈与者が亡くなると支払われなくなる
- 受取人を変更できる
ことを理由に、
契約時に、受取給付金は未確定であるとし、「定期金に関する権利」の贈与には該当しないと説明されています。
贈与者が亡くなると、
- 生存給付金の給付は終了し、
- 契約の残額は、一時保険金として給付されます。
一時保険金は、贈与者の相続財産とみなされますが、
死亡保険金非課税枠「500万円×法定相続人の数」
の適用が可能です。
※
生命保険金については、
「生命保険金|相続税法上の取扱いと非課税」をご確認ください。
したがって、

- 暦年贈与を手間なく受けられる
- 相続税の非課税枠も確保できる
という利点があります。
ただし、
- 運用結果によって受取額が変動するタイプ
- 給付金を外貨で受け取るタイプ
は、
- 元本割れするリスクがある
- 途中解約すると、違約金が課される
という欠点もありますので、
よく検討してから契約する必要があります。

(2) 生命保険の保険料を暦年贈与
毎年の保険料を暦年贈与する方法もあります。
受贈者が、
- 贈与者を被保険者とする生命保険契約に加入し、
- その保険料を受贈金で支払う
方法ですが、
暦年贈与を有効に行うために、
- 毎年贈与契約書を作成すること
- 受贈者が、自ら生命保険契約に加入すること
- 保険料は、受贈者が普段から使用している預金口座より振り込むこと
- 年単位の保険料が110万円を超える場合には、贈与税の申告を行うこと
- 所得税の確定申告では、受贈者が生命保険料控除を適用すること
のすべてを網羅しておく必要があります。
この方法を選択するメリットとしては、
贈与者が亡くなった際に、保険金を受給できるので、贈与者の相続において、相続税を保険金にて納税できる
という点です。
なお、
この場合の保険金は、
(保険金額-支払済保険料-50万円)×1/2
が、所得税の課税所得(受贈者の一時所得)となります。
相続税の申告にあたって
相続開始前3年以内の生前贈与加算

相続開始前3年以内に贈与を受けた者が、財産を相続(または遺贈)した場合には、相続開始前3年以内に受贈した財産の価額を、贈与者の相続税課税価格に加算しなければなりません。
※
受贈財産の価額が、110万円以内であっても、
加算しなければなりません。
※
相続開始前3年以内の生前贈与加算については、
「相続開始前3年以内の贈与と相続税」をご確認ください。

したがって、
受贈者が、財産を相続(または遺贈)する予定がある場合には、
相続開始前3年以内の生前贈与は、相続財産の前倒取得であり、相続税の負担がある
ということを、十分に理解したうえで、贈与を実行するべきです。
相続税の2割加算

相続税法では、
- 配偶者
- 一親等の血族
以外の者の相続税には、その2割を加算することが定められているため、

受贈した財産が相続税課税価格に加算され、
- 配偶者
- 一親等の血族
以外の者に、相続税が発生した場合には、相続税の2割加算が行われます。
小規模宅地等の特例

生前に宅地等を受贈した場合、贈与者の相続において、その宅地等の価額が相続税課税価格に加算されたとしても、小規模宅地等の特例を適用することはできません。

※
相続時精算課税を選択していても同様です。
※
小規模宅地等の特例については、下記の記事をご確認ください。
物納

生前に財産を受贈した場合、贈与者の相続において、その財産の価額が相続税課税価格に加算されたとしても、その財産を物納することは認められていません。

その財産は、税法上、相続税課税価格に加算されますが、
実際には、
受贈時にすでに所有権が移転しており、
相続により取得したものではないからです。
したがって、
相続税が発生した場合には、
他の納税手段を確保する必要があります。
※
相続時精算課税を選択していても同様です。
あとがき

ご両親や祖父母の方々にあっては、
贈与によって、
お子様やお孫さんを助けてあげようという機会も多いと思います。
贈与を行う場合には、
せっかくの贈与が無効にならないよう、
上記をご確認くださればと思います。