
小規模宅地等の特例は、
- 居住用
- 事業用(3を除く)
- 貸付事業用
の3種類の宅地等で、併用可能です。
※ それぞれの宅地等の特例については、下記をご確認ください。
小規模宅地等を併用する場合の限度面積


3種類の宅地等の併用は、
- 貸付事業用がない場合(居住用と事業用の併用)
- 貸付事業用がある場合
で、適用限度面積に、違いがあります。
貸付事業用がない場合(居住用と事業用の併用)
限度面積

①≦330㎡、②+③≦400㎡(合計730㎡まで)
貸付事業用がある場合
限度面積

①×200/330+(②+③)×200/400+(④+⑤) ≦200㎡(合計200㎡まで)
★ 有利選択
2種類の併用の場合

居住用と貸付用
- ①居住用の㎡単価×2.64
- ④⑤貸付事業用の㎡単価
の高い方を、優先適用した方が有利となります。
事業用と貸付用
- ②③事業用の㎡単価×3.2
- ④⑤貸付事業用の㎡単価
の高い方を、優先適用した方が有利となります。
3種類の併用の場合

下記のAとBを比較して、高い方を、選択した方が有利となります。
A
- ①居住用
- ②③事業用
を併用した場合の減額金額
B
- ①居住用の㎡単価×2.64
- ②③事業用の㎡単価×3.2
- ④⑤貸付事業用の㎡単価
の高い方から、優先適用した場合の減額金額
有利選択の例外

併用では、
- ㎡単価の高い宅地を優先適用する
- 減額割合の高い宅地等を優先適用する
ことが鉄則ですが、
配偶者の税額軽減の適用がある場合には、あえて高い方を適用しないことも一考です。
なぜなら、
配偶者は、
- 1億6,000万円
- 相続税課税価格のうち、法定相続分
の高い方の金額までは、相続税を控除されるため、
控除可能な枠が残っているならば、
小規模宅地等の特例を、
配偶者以外に、優先適用した方が有利となる場合があるからです。
※
法定相続分については、
「相続人と相続分|法定相続人と法定相続分」をご確認ください。
なお、
- 配偶者
- 配偶者以外の相続人
の両方が財産を相続(または遺贈)する場合には、
一次相続だけを考えると、
配偶者の税額軽減をできるだけ多く適用できる方が有利となりますが、
二次相続まで考えると、
配偶者の一次相続財産を小さくした方が有利となるケースが多いため、
必ず二次相続までを含めて検討することが大切です。
※
配偶者の税額軽減については、
「配偶者の税額軽減(相続税の配偶者控除)|要件と注意点」を、
遺贈については、
「遺贈|包括遺贈と特定遺贈,条件付遺贈と負担付遺贈」をご確認ください。
小規模宅地等の特例適用にあたっての注意点(3種類共通)
適用を受けることができる親族の範囲

小規模宅地等の特例の適用を受けることができる親族とは、
- 配偶者
- 3親等内の姻族
- 6親等内の血族
です。
したがって、
孫が
- 養子になっている場合
- 代襲相続人となっている場合
以外にも、
遺言で、孫に小規模宅地等を遺贈すれば、要件を満たせば、孫も小規模宅地等特例の適用可能となります。
※
遺言については、
「遺言|遺言の要式と撤回、デメリット」をご確認ください。
ただし、
この場合には、
孫の相続税に、2割加算が行われる
点に注意が必要です。
※
孫との養子縁組については、
「孫との養子縁組|制度の内容とメリット・デメリット」をご確認ください。
なお、
一般的には、
★ 2割加算される者に、小規模宅地等特例を優先適用すると、有利となることが多いです。
適用を受けるためには、申告が必要

小規模宅地等の特例は、申告することが、適用要件となっています。
評価減の適用を受けたことによって、
相続税が0円になった場合でも、
必ず申告をしなくてはなりません。
ただし、
期限内申告が要件とはなっていませんので、
何らかの理由で、
相続税の申告期限を過ぎてしまっても、
申告期限までに、遺産が分割できていれば、
期限後申告において、
小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。
特例適用対象宅地等が複数ある場合は、同意が必要

適用対象宅地等が複数ある場合には、
- どの宅地等の
- どのくらいの㎡で
この特例の適用を受けるかについて、
適用対象宅地等の取得者全員の同意が必要です。
小規模宅地等の特例は、
適用を受ける者と受けない者の間で、
相続税の負担に不公平が生じるため、
全員の同意を得る過程で、
適用を受ける者から受けない者への
- 代償分割
- 暦年贈与
により、
配慮せざるを得ない場合が出てくることも考えられますが、
全員の同意が得られたら、相続税申告書第11・11の2表(小規模宅地等についての課税価格の計算明細書)の同意欄(下の画像の赤枠内)に、適用対象宅地等の取得者全員の氏名を記載します。
※
代償分割については、
暦年贈与については、
「暦年贈与|メリット・デメリットと間違えない暦年贈与の方法」をご確認ください。


- 適用対象宅地等の取得者全員の同意を得ていない場合
- 計算明細書に、適用対象宅地等の取得者全員の氏名を記載していない場合
には、小規模宅地等特例が適用不可となります。
- 平成26年8月8日裁決
- 平成29年1月26日東京高裁判決(確定)
においても、
同意についての記載がなかったため、
小規模宅地等の特例の適用不可となっています。
未分割の場合には適用を受けることができない

相続税の申告期限までに遺産が分割できない場合には、
- 民法上の相続分による仮申告
- 仮納税
を行うことが一般的ですが、
仮申告においては、小規模宅地等の特例の適用を受けることはできません。
したがって、
〇 仮申告の際に、
申告期限後3年以内の分割見込書を提出しておき、
その上で、
申告期限から3年以内に、遺産が分割できた場合には、
その分割できた日から4か月以内に、更正の請求等を行うことにより、
小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。
なお、
〇 相続税の申告期限内に、仮申告を行っていながら、
申告期限後3年以内の分割見込書の提出を失念していた場合には、
小規模宅地等の特例の適用を受けることはできませんが、
〇 申告期限内に、
- 仮申告
- 申告期限後3年以内の分割見込書の提出
の両方を行っていなかった場合で、
申告期限から3年以内に、
- 期限後申告書
- 申告期限後3年以内の分割見込書
の両方の提出を行ったときは、
遺産の分割ができた日から4か月以内に、
更正の請求等を行うことにより、
小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。
※
遺産が未分割の場合の相続税の申告については、
「遺産未分割のデメリットと相続税申告」をご確認ください。
後に有利な選択が判明しても、更正の請求をすることはできない

最初の相続税の申告において、
小規模宅地等の特例の適用を受けていなかった場合には、
更正の請求等によって、小規模宅地等の特例の適用を受け直すことは認められていません。
また、
小規模宅地等の特例の適用を受けるにあたって、
最初に申告した宅地等の選択(居住用、事業用、貸付事業用の別)に対して、
後に、別途有利な宅地等の選択が判明しても、
そのことを理由に、更正の請求をすることはできません。
なぜなら、
これらの場合、最初の申告が、
国税通則法に規定する
- 国税に関する法律に従っていなかった
- 当該計算に誤りがあった
という事由に該当しないため、
更正の請求をする理由に該当しないからです。
ただし、
最初の申告において、
小規模宅地等特例の適用要件等に間違いがあった場合には、
上記の事由に該当するため、
修正申告にあたって、
最も有利な選択をし直すことが認められています。
物納する場合は、収納価額が低くなる

小規模宅地等の特例の適用を受けた土地を物納しようとする場合には、減額された後の金額が収納価額になります。
したがって、
物納による納税額は、
土地本来の価値より、大幅に少なくなる点に注意が必要です。
あとがき

小規模宅地等特例の適用対象となる宅地等が、複数ある場合には、
- 居住用
- 事業用
- 貸付事業用
宅地等で、特例を併用することができるため、
限度面積の範囲内で、
それらを、有利に選択適用することが求められます。
したがって、
その選択にあたって、
どのようにしたら有利になるのか、
また、
適用を受ける上での注意点も解説していますので、
内容を、よくご確認くださればと思います。