寄与分

共同相続人の中に、
- 故人の事業に対して、労務または財産の提供
- 故人に対して、療養・看護・扶養
を行うことにより、
故人の財産の維持・増加に、特別の貢献をした者がいる場合には、
- 指定相続分
- 法定相続分
- 特別受益分
とは別に、相続財産を取得できることとされています。(民法904の2)
※ 相続人が複数の場合に、共同相続人となります。
※ 指定相続分と法定相続分については、「相続人と相続分|法定相続人と法定相続分」をご確認ください。
※ 特別受益については、「特別受益|民法の定めと税法の定め」をご確認ください。
寄与分権利者の範囲

寄与分を主張できるのは、相続人に限られています。
包括受遺者は、共同相続人と同様に取り扱われますが、
寄与分は主張できないこととされています。
また、
代襲相続人が、被代襲者の寄与分を引き継ぐことができるかどうかについては、
肯定説、否定説、双方ありますが、
判例には、引き継ぐことを認めたものがあります。(横浜家審 平成6.7.27)
寄与分の決定と算定

寄与分は、
寄与分権利者の主張を受けて、
共同相続人間での協議により、決定されます。
※ 遺産分割協議については、「遺産分割の3つの手続き|遺産分割協議を中心に」をご確認ください。
寄与分権利者は、
遺産分割の完了後に、寄与分を主張することはできません。
また、
故人が、遺言により寄与分を指示しても、
法的拘束力はないものと考えられています。
※ 遺言については、「遺言|遺言の要式と撤回、デメリット」をご確認ください。
- 共同相続人間で、協議をすることができない
- 共同相続人間の協議が調わない
場合で、
寄与者が、家庭裁判所に、遺産分割の請求を行い、
かつ、審判を申立てたときは、
家庭裁判所が、寄与分を定めることができます。
※ 審判ではなく、調停も可能です。
寄与分は、
その寄与の時期や方法、程度および遺産額など、一切の事情を考慮したうえで決定されますが、
遺贈があった場合には、
遺贈は、寄与分に優先されるため、
寄与分が、
遺産総額から遺贈分を控除した金額を、上回ることはありません。
(遺贈分は全額、確保される)
※ 遺贈については、「遺贈|包括遺贈と特定遺贈,条件付遺贈と負担付遺贈」をご確認ください。
寄与分と相続税

共同相続人間での協議により、寄与分が認められた場合も、
遺産分割協議が調った場合には、
相続税において、寄与分を意識することは、あまりありません。
協議による遺産分割の通りに、相続税を計算すればよいだけだからです。
遺産分割協議が調っていない(遺産が未分割の場合)には、
寄与分についても、共同相続人間の協議が調っていないものと扱われ、
遺産が未分割の場合の相続税の申告に、寄与分は反映させません。
※ 遺産が未分割の場合については、「遺産未分割のデメリットと相続税申告」をご確認ください。
特別寄与料

上記のように、
相続人は、寄与分を主張できますが、
相続人以外の者は、
たとえ故人の財産の維持・増加に、特別の貢献をしたとしても、
遺贈がない限り、財産を取得することはできませんでした。
そこで、
相続人以外の者の、故人への特別の貢献に対する措置として、
平成30年7月の民法改正により(令和元(2019)年7月1日以後の相続より)、
故人に対して、「無償で」特別の寄与をした者は、相続人に対して、特別寄与料(金銭)の請求をすることができる
ようになりました。
特別寄与料請求者の範囲

特別寄与料を、相続人に請求できる者は、
- 相続人
- 相続の放棄をした者
- 相続人の欠格事由に該当する者
- 廃除された者
以外で、
相続開始時に、故人の
- 六親等内の血族
- 三親等内の姻族
であった者に限定されています。
※ 相続の放棄については、「相続の放棄|手続きと相続税申告」をご確認ください。
包括受遺者は、寄与分は主張できませんが、
特別寄与料を請求することは可能です。
※ 内縁者や事実婚を選択している者は、特別寄与料を請求することはできません。
特別寄与料の決定と算定

特別寄与料は、相続人との協議により決定されますが、
- 相続人と協議をすることができない
- 相続人との協議が調わない
場合には、
特別寄与者は、家庭裁判所に、協議に代わる処分を請求することができます。
ただし、
家庭裁判所に対して、処分の請求をできる期間は、
特別寄与者が、相続の開始および相続人を知ったときから6か月以内
および
相続開始の時から1年以内
です。
特別寄与料は、寄与分と同様、
その寄与の時期や方法、程度および遺産額など、一切の事情を考慮したうえで決定され、
遺贈があった場合には、
遺贈は、特別寄与料に優先され、
特別寄与料が、遺産総額から遺贈分を控除した金額を上回ることはありません。
(遺贈分は全額、確保される)
特別寄与料の決定を受けて、
各相続人は、
特別寄与料に、指定相続分または法定相続分を乗じた額
を負担することになります。
特別寄与者は、相続人の全員に対して、その負担を請求することができますが、
相続人のうちの1人または数人に対して、その負担を請求することもできます。
特別寄与料と相続税

特別寄与料の額が確定した場合の相続税の計算においては、
故人が、特別寄与料に相当する金額を、特別寄与者に遺贈したものとみなされます。
特別寄与料は、
特別寄与者が、相続人に請求するものであるけれど、
その経済的実質を根拠にして、
故人の相続税課税に、取り込まれることになったという訳です。
※
特別寄与料を支払った相続人は、
その特別寄与料に相当する金額を、
相続税課税価格から控除することができます。
注意すべき点としては、
特別寄与者が、
故人の
- 一親等の血族
- 配偶者
以外の者である場合には、
その相続税に、2割が加算される
という点です。
ここで、
特別寄与者が、相続人の配偶者(例:長男の配偶者)である場合には、
自身の配偶者(例:長男)へも特別寄与料を請求することになり、
加えて、
その特別寄与料に対応する相続税は、2割加算されるため、
同世帯内での実質的な取得額(例:長男と配偶者の取得額の合計額)が、
特別寄与料を請求する前(例:長男の取得額)よりも少なくなる
というような事態も考えられます。
このような場合には、
特別寄与料を請求するのではなく、
- 故人に、生前、遺贈を準備してもらう
- 遺産分割協議で、相続人である配偶者の相続分に、特別寄与料を盛り込んでもらう
等の代替案も一考です。
相続税の申告については、
特別寄与料を取得した者は、
特別寄与料が、
- 相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に確定した場合:通常の期限内
- 相続の開始を知った日の翌日から10か月を経過した日の翌日以後に確定した場合:その確定したことを知った日の翌日から10か月以内
に、申告を行わなければなりません。
※
特別寄与料を負担した相続人は、
相続税の申告後に、特別寄与料が確定した場合には、
その確定したことを知った日の翌日から4か月以内に、
更正の請求をすることができます。
あとがき

- 寄与分
- 特別寄与料
の制度は、
相続人間だけでなく、相続人以外の親族をも含めた
公平性の確保を目的として、
故人の財産の維持・増加への特別の貢献を、
遺産分割に反映させようとしたものです。
特別寄与料は、
近年の民法改正により認められたものであるため、
今後も、最新情報を確認していく必要があります。
随時、追加・訂正を加えていきたいと考えています。