制度の内容

青色申告(正規の簿記の原則によるもの)事業(不動産貸付事業等を除く)の後継者として、円滑化法の認定を受けた者が、
平成31年1月1日から令和10年12月31日までの間に、
特定事業用資産を、
先代事業者(または先代事業者の生計同一親族)から、相続により取得した場合に、
その青色申告事業を継続すること等その他一定の要件を満たすときは、
その特定事業用資産についての相続税の納税が猶予され、
さらに、
後継者が死亡した場合その他一定の事由により、
納税が猶予されている相続税の納付は、免除されます。


※
この制度の適用を受けようとする後継者は、
「個人事業承継計画」を策定して、
認定経営革新等支援機関に、所見を記載してもらい、
令和6年3月31日までに、都道府県知事に提出し、
その確認を受ける必要があります。
その後、
相続開始後8か月以内に、
適用要件を満たしていることについて、改めて申請を行い、
円滑化法の認定を受ける必要があります。
※
個人事業承継計画は、相続後に提出することも可能です。
※
この制度の対象となる「特定事業用資産」とは、
先代事業者の事業の用に供されていた
- 宅地等(各後継者を合計して400㎡まで)
- 建物(各後継者を合計して800㎡まで)
- 固定資産税・自動車税(営業用)の課税対象となっている減価償却資産(2を除きます)
- その他一定の資産
で、相続年の前年分の確定申告において、
青色申告決算書の貸借対照表に計上しているものです。
※
この制度を継続適用するためには、その適用期間中、
税務署に、「継続届出書」を、3年ごとに提出する必要があります。
適用要件
1.被相続人の要件

(1)被相続人が先代事業者である場合
- 相続年の前々年、前年、相続年に(3年間)、青色申告をしていること
(2)被相続人が先代事業者の生計同一親族である場合
- 先代事業者の贈与または相続開始の直前に、先代事業者と生計同一親族であったこと
- 先代事業者からの贈与または相続開始後からその1年後までの間に、特定事業用資産を相続していること
2.相続人等(後継者)の要件

- 円滑化法の認定を受けていること
- 相続開始の直前において、特定事業用資産に係る事業に従事していたこと(先代事業者が60歳未満で死亡した場合は、この要件は該当不要となります)
- 相続税の申告期限までに、開業届を提出し、青色申告の承認を受けていること(見込みを含みます)
- 被相続人から相続した特定事業用宅地等について、小規模宅地等の特例の適用を受けていないこと
- 相続税額(納税猶予額)および利子税に相当する担保を提供すること
- 相続開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に、相続税の申告をすること
※
特定事業用資産に係る事業からは、
- 資産管理事業(資産保有型・資産運用型事業)
- その他一定の事業
を除きます。
※
先代事業者から引き継いだ事業に対して、
青色申告の承認申請をする場合の申請期限は、下記のとおりです。

なお、
後継者が、相続前から他の業務を行っており、
青色申告をしようとする場合の申請期限は、
そのしようとする年分のその年の3月15日までです。
※
小規模宅地等の特例については、下記をご確認ください。
相続税の納税猶予が打ち切りとなる場合

以下の場合には、
納税が猶予されている相続税の全部または一部を、
利子税と併せて、
その打ち切りの原因となる事由に該当した日から2か月以内に、
納付しなければなりません。
1.相続税の全部および利子税を納税しなければならない場合
- 事業を廃止した場合(破産その他やむを得ない理由がある場合を除きます)
- 資産管理事業その他一定の事業に該当した場合
- 当該事業の収入が0円となった場合
- 青色申告の承認が取り消された場合
- 青色申告の承認申請が却下された場合
- 継続届出書を税務署へ提出しなかった場合
2.相続税の一部および利子税を納付しなければならない場合
- 当該特定事業用資産が、事業の用に供されなくなった場合
※
- 陳腐化による廃棄
- 買換え(適用後1年経過後以降)
- 法人化のための現物出資(適用後5年経過後以降)
で税務署長の承認を受けた場合を除きます。
ただし、
法人化のための現物出資については、
医療法人その他一定の法人への法人化である場合には、
相続税の納税猶予は打ち切りとなり、
相続税の一部および利子税を納付しなければなりません。
したがって、
後継者が、
将来、医療法人その他一定の法人の設立を検討している場合には、
この制度ではなく、
小規模宅地等(事業用)の特例の適用を選択するべきと考えます。
※
平成19年4月1日以降設立される医療法人は、出資持分のない医療法人しか認められず、
その出資に関する権利を後継者へ承継することができなくなりました。
したがって、
平成19年4月1日以降設立される医療法人に関しては、
相続税・贈与税の課税関係は生じないことになります。
相続税の納税猶予額が免除になる場合

- 後継者(相続人等)が亡くなった場合
- 後継者がこの制度を最初に適用した際の申告期限から5年を経過する日後に、この制度の適用を受けている特定事業用資産の全部を、後継者に贈与し、その後継者も、その特定事業用資産の全部について、この制度の適用を受ける場合
- 事業を継続できなくなったことについて、やむを得ない理由がある場合
- 破産手続開始決定などがあった場合
- その他一定の場合
に、
- 「免除届出書」
- 「免除申請書」
を、税務署へ提出したときは、
納税が猶予されていた相続税(または相続税の一部)は、
その納付が免除されます。
※
やむを得ない理由とは、下記のいずれかに該当することとなったことをいいます。
- 障害等級1級の交付を受けたこと
- 身体上の障害程度1級または2級の交付を受けたこと
- 要介護5の認定を受けたこと
なお、
先代事業者が亡くなった場合において、
その先代事業者から、特定事業用資産の贈与を受け、
その贈与について、「個人の事業用資産の贈与税の納税猶予」の適用を受けていたときは、
納税猶予されていた贈与税については免除となりますが、
その特定事業用資産は、相続により取得したものとみなされ、
相続税の計算をすることになります。
そして、
この場合の相続税課税価格に算入される金額は、
その特定事業用資産の「贈与時の価額」となり、
相続税のうち、この資産に対応する部分について、
「個人の事業用資産についての相続税の納税猶予および免除」の適用を受けることができます。
※
個人の事業用資産の贈与税の納税猶予については、
「事業用資産の贈与税の納税猶予|個人版事業承継税制」をご確認ください。
また、
上記の贈与について、受贈者が相続時精算課税を選択していた場合には、
相続税課税価格には、相続時精算課税の選択期間中に贈与を受けた財産の「受贈時の価額」を加算することになりますが、
その中に、その特定事業用資産の価額も含まれていることになり、
相続税のうち、この資産に対応する部分について、
「個人の事業用資産についての相続税の納税猶予および免除」の適用を受けることができます。
※
相続時精算課税については、
「相続時精算課税制度|メリット・デメリットと選択すべきケース」をご確認ください。
小規模宅地等(事業用)の特例との併用

個人の事業用資産の相続税の納税猶予と小規模宅地等(事業用)の特例とは、併用することができません。
宅地等や相続人等が異なっていたとしても、併用できません。
したがって、
両制度の適用を受けることができる場合には、
どちらを選択するかについて、検討することになります。
両制度の特徴としては、
【個人の事業用資産の相続税の納税猶予】
- 後継者以外の相続人の相続税は軽減されない
- 事業用の債務は、特定事業用財産の価額から控除し、相続税の債務控除は適用できない(後継者以外の相続人の相続税は軽減されない)
【小規模宅地等(事業用)の特例】
- 後継者以外の相続人の相続税も軽減される
- 事業用の債務は、相続税の債務控除が適用される(後継者以外の相続人の相続税も軽減される)

なお、
- 特定同族会社事業用宅地等
- 貸付事業用宅地等
について、小規模宅地等の特例の適用を受ける場合には、
この制度も適用を受けることができますが、
その適用について、下記の制限が設けられています。
【小規模宅地等(特定同族会社事業用)の特例の適用を受ける場合】
この制度の適用対象限度面積:400㎡-B
【小規模宅地等(貸付事業用)の特例の適用を受ける場合】
(特定同族会社事業用および特定居住用宅地等と併用の場合を含む)
この制度の適用対象限度面積:400㎡-2×(A×200/330 + B×200/400 + C)
A:特定居住用宅地等の面積
B:特定同族会社事業用宅地等の面積
C:貸付事業用宅地等の面積
相続税の納税猶予額が少額となる場合

上記のように、
免除事由に該当しない限り、この制度は、
相続税の免除ではなく、あくまで納税の猶予であるため、
この制度適用中の長い間、
要件から逸脱できないという制約を受け続けていることになります。
また、
上記の、納税猶予が打ち切りとなる事由に該当することになった場合には、
納税猶予額ばかりでなく、利子税の負担もあります。
しかも、
- 都道府県知事への、円滑化法確認・認定手続き
- 税務署長への、3年ごとの報告・特定事業用資産の異動があった場合の承認手続き
などは、事務的な煩雑さを相当伴います。
したがって、
納税が猶予される相続税の額が少額である場合には、
本当に、この制度の適用を受けるべきかどうかをよく検討し、
あえて、適用を受けない選択をすることも一考であると考えます。
あとがき

この制度は、個人の事業承継を円滑に行うため、
令和元年度の税制改正により創設されました。
贈与税および相続税について、
その納税が猶予および免除される制度ですが、
そのうち相続税についての納税猶予および免除について、解説しています。
なお、
この制度は、小規模宅地等(事業用)の特例と併用することはできませんので、
適用にあたっては、
両者の特徴を比較しながら、
どちらを選択するべきか、検討する必要があります。
その、両者の特徴についても、解説していますので、
内容をご確認くださればと思います。