
遺産分割の方法には、
- 現物分割
- 代償分割
- 換価分割
- 共有とする分割
の4つの方法があり、これらを組み合わせることも可能です。
※
遺産分割の手続きについては、
「遺産分割の3つの手続き|遺産分割協議を中心に」をご確認ください。
1.現物分割

現物分割は、
個々の相続財産の取得者を、個別に決定し、
それぞれを、各共同相続人に振り分ける方法です。
※
相続人が複数の場合に、共同相続人となります。

【長所】
- 財産をそのまま残すことができる
- 手続きも比較的簡単で分かりやすい
【短所】
- 財産を公平に分けることが難しい
- 共同相続人間に、相続財産の価格差が生じる可能性がある
2.代償分割

代償分割は、
特定の相続人が、相続財産の全部または大部分を取得し、
その相続人が、他の相続人に、金銭等の財産を交付する方法です。

【長所】
- 相続財産を、細分化することなく、一人の相続人に引き継がせることができる
- 相続人間で、財産を公平に分割できる
【短所】
- 相続財産を引き継ぐ相続人に、支払能力が必要
代償分割を行う際には、
分割協議書に、
- 代償財産の交付日
- 代償財産を交付する者
- 代償財産の交付を受ける者
- 代償財産の種類
- 代償財産の金額
- 代償財産の交付方法
を記載する必要があります。
また、
代償財産を交付する相続人が、
その者固有の財産を、代償財産として交付する場合には、
その財産を、その時の時価で譲渡したものとみなされ、
その財産の譲渡時の時価が、取得時より増加している場合には、譲渡所得税が課税されます。
一方、
代償財産の交付を受ける相続人は、
その財産を、その時の時価で取得したことになります。
なお、
代償分割においては、
相続人間の代償金の支払いに関して、争いが生じる恐れがありますが、
実務では、このことへの対策として、
生命保険金を、代償金に充てるように準備しておくケースが多くみられます。
生命保険金は、受取人固有の財産であるため、遺産分割の対象とはならず、
代償金として使用することができるので、
相続人の支払能力がない場合に、準備をしておけば、
代償金を確保することができ、相続人間の争い防止に繋がります。
※
生命保険金については、
「生命保険金|相続税法上の取扱いと非課税」をご確認ください。
3.換価分割

換価分割は、
相続財産の全部または一部を売却し、
その売却代金を、共同相続人間で分配する方法です。

【長所】
- 相続人間で財産を公平に分けることができる
- 相続人の全員が取得を希望しない財産がある場合、相続人間の公平性を確保することができる
- 代償分割を行おうとしても代償金の支払能力がない場合の解決策になる
- 相続税の納税資金が準備できない場合の解決策になる
【短所】
- 売却可能な財産でなければ、採用できない
- 売却時期・方法・売却額・売却のための費用負担・売却代金の分配方法のすべてについて、相続人全員の合意がなければ、採用できない
- 相続財産は遺らない
- 売却手続きは煩雑で、完了までに時間がかかる可能性がある
- 売却時に、仲介手数料などの費用負担や譲渡所得税などの税金負担が生じ、手元に残る金銭が、元々の財産価額より少なくなる可能性がある
財産を売却するためには、
名義を、一旦相続人全員に変更登記する必要がありますが、
- 相続人の数が多い
- 遠方の相続人がいる
- 高齢の相続人がいる
などの場合には、
相続人全員で、一連の売却手続きを行うことは困難です。
したがって、
そのような場合には、
- 相続人の中で、代表者を決める
- 相続財産の名義を、代表者名義に変更登記する
- 代表者が、一連の売却手続きを行う
- それぞれの相続人に、売却代金を分配する
という手順をとることが認められています。
※ 変更登記には、登録免許税がかかります。
この場合、遺産分割協議書に、
- 換価分割を行う旨
- そのために代表者1人に名義を変更登記し、一連の売却手続き後、すみやかに売却代金を分配する旨
を記載する必要があります。
換価分割は、
共同相続人の全員の合意があれば、
分割協議において、自由に採用することができますが、
家庭裁判所における審判においても、
家庭裁判所は、必要な場合に、
遺産の全部または一部を、競売して換価するように命じることが認められています。
そして、
「家庭裁判所の審判の内容通りに財産を換価するため、便宜上、相続人の一人に名義変更をした場合には、贈与税の課税が問題になることはない」
とされています。(国税庁による照会回答)
換価分割と相続税

換価分割をした場合の相続税の計算は、
その財産の評価額について、分配(共有)割合に応じた価額が、
各相続人の相続税課税価格に算入されます。
なお、
換価分割のために処分した宅地等についても、
配偶者が、故人の居住用宅地等を取得した場合について、
小規模宅地等の特例の適用が可能です。
※
その他の場合については、
換価分割のために宅地等を処分することで、
「宅地等を、相続税の申告期限まで継続して所有している」という要件を満たさなくなりますので、
小規模宅地等の特例を適用することができません。
※
小規模宅地等の特例については、以下をご確認ください。
換価分割と譲渡所得税

譲渡所得の起因となる財産を換価分割した場合には、譲渡所得課税が行われますが、
この場合、それぞれの要件を満たせば、
以下の譲渡所得税の優遇措置の適用を受けることができます。
【相続税額の取得費加算の特例(譲渡所得税の特例)】
個人が、相続または遺贈により財産を取得し、相続税額が算出された場合で、
その相続開始の日の翌日から、その相続税申告期限の翌日以後3年を経過するまでの間に、
相続税課税価格に算入された資産を譲渡したときは、
以下の金額を、譲渡所得を計算するうえでの取得費に加算することができます。
A×(B/C)
A:譲渡者の確定相続税額
B:譲渡資産の相続税評価額
C:譲渡者の相続税課税価格
※ 国税庁「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」
※
遺贈については、
「遺贈|包括遺贈と特定遺贈,条件付遺贈と負担付遺贈」をご確認ください。
【相続時より取得した空き家の譲渡所得の特別控除】
相続により、故人の居住用家屋(空き家)およびその敷地を取得した個人が、
相続開始時から、その相続開始の日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までに、
その家屋および敷地を譲渡した場合には、
譲渡所得の金額から、最高3,000万円までを控除することができます。
※
家屋および敷地の譲渡には、
家屋(空き家)を除却した後、敷地を譲渡した場合を含みます。
※ 令和5年12月31日までの期限立法です
※
- 相続開始の直前において、故人以外に居住者がいなかったこと
- 売却代金が1億円以下であること
などの要件がありますので、
詳細は、
国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」をご確認ください。
【非上場株式の譲渡に係るみなし配当課税の特例】
個人が、相続または遺贈により財産を取得し、相続税額が算出された場合で、
その相続開始の日の翌日から、その相続税申告期限の翌日以後3年を経過するまでの間に、
相続税課税価格に算入された非上場株式をその発行会社に譲渡したときは、
その発行会社から交付される譲渡対価のうち、その発行会社の資本金等を超える部分の金額は、
みなし配当課税はなく、
株式の譲渡所得に係る収入金額として、譲渡所得税の計算を行うことができ、
さらに、
前述した「相続税額の取得費加算の特例(譲渡所得税の特例)」も適用することができます。
この特例の適用により、
- 配当について、所得税の源泉徴収が不要になる
- 総合課税ではなく、分離課税により、所得税の計算ができる
というメリットを享受できます。
※ 国税庁「No.1477 相続により取得した非上場株式を発行会社に譲渡した場合の課税の特例」
なお、
所得税の申告期限までに、売却代金の分割が完了していない場合には、
法定相続分に応じて分割を行ったものとして、譲渡所得の確定申告を行いますが、
その後、分割が完了して、各相続人の所得税に違いが生じたとしても、
全体の譲渡所得に相違がないため、
更正の請求をすることは認められません(修正申告も不要です)。
※
法定相続分については、
「相続人と相続分|法定相続人と法定相続分」をご確認ください。
4.共有とする分割

相続財産の全部または一部を、相続人全員の共有とする方法です。

【長所】
- 持分の割合を決めるだけなので、手続きが簡単である
【短所】
- 各相続人が、相続財産を自由に使用収益できない
- 相続後、売却しようとする際、または担保に入れようとする際に、共有者全員の同意が必要となる
- 一度共有にした財産を単有に変更しようとする場合にも、共有者全員の同意が必要で、費用や税金も負担しなければならない
あとがき

遺産分割に4つの方法のうち、注意すべきは、
代償分割と換価分割です。
この2つの方法については、
税務上の取扱いや注意点も含めて、特に詳しく解説していますので、
内容をよくご確認くださればと思います。