
民法においては、
「相続が開始すると、故人に属した一切の権利義務は、相続人に承継される」
ことが定められています。
ここで、
相続人が一人(単独相続)の場合は、
一切の権利義務が、その一人の相続人に移転し、
相続人が複数(共同相続)の場合には、
一切の権利義務は、すべての相続人の共有状態となります。
したがって、
共同相続の場合には、
権利義務の共有状態を解消する必要があり、
この場合の、個々の財産債務を、相続人のそれぞれに、
具体的に帰属させるための手続きを、遺産分割といいます。
遺産分割手続きの優先順位は、以下のようになります。
- 遺言があれば、遺言が優先されます(指定分割)
- 遺言がなければ、共同相続人間での協議により、遺産分割を行います(遺産分割協議)
- 共同相続人間で分割協議が調わない場合には、家庭裁判所に調停を申し立てることができます。


なお、
各相続人が、遺産分割によって取得した財産は、
相続開始の時にさかのぼって、故人から承継したこととなります。
また、
遺産分割では、分割時の評価額を基準にして分割を行いますが、
相続税の課税上は、相続開始時点の評価額を基準に、相続税を計算します。
1. 遺言による遺産分割

遺言がある場合には、遺言に従って遺産分割を行います。
※
遺言については、
「遺言|遺言の要式と撤回、デメリット」をご確認ください。
なお、
遺言が、すべての相続財産を対象にしていない場合には、
その対象外の財産について、
相続人全員の協議により、遺産分割を行わなければなりません。
相続税の申告後に遺言書が見つかった場合

相続税の申告後に、遺贈に係る遺言書が見つかった場合には、その遺言の内容に従って、財産の再分割を行います。
その遺言により、遺贈を受けるべき者は、
遺贈の放棄をすることもできますが、
これらの事由が生じたため、
- 新たに申告書の提出要件に該当した場合:期限後申告
- すでに申告した相続税額に不足を生じた場合:修正申告
- すでに申告した相続税額が過大となった場合:更正の請求
をすることができます。
※
遺贈については、
「遺贈|包括遺贈と特定遺贈,条件付遺贈と負担付遺贈」をご確認ください。
2. 遺産分割協議による遺産分割

遺産分割協議の時期

相続開始後、いつでも遺産分割を行うことができ、
いつまでに完了しなければならないという決まりもありません。
また、
相続人の協議により、
5年を超えない期間で、共有物の分割をしないことを合意することもできます。
しかしながら、
相続税の申告期限(相続開始後10か月以内)までには、遺産分割協議をまとめるべきと考えます。
なぜなら、
遺産が未分割のまま、
〇 故人の相続人が亡くなってしまった場合には、
- その者の子供が相続人になり、相続が複雑になる
- 亡くなった相続人の相続財産を確定できない
というリスクがあるからです。
また、
〇 故人の相続人が、重度の認知症になってしまった場合には、
その者は遺産分割協議に参加することはできず、
- 成年後見人
- 特別代理人(親族後見の場合)
を選任しなければならなくなります。
※
選任せずに分割協議を進めた場合は、
分割協議は、無効となります。
〇 故人の相続人の認知症が軽度であっても、
その相続人が、分割協議への参加能力(意思能力)を有することを、
医師の証明書などにより証明する必要があります。
その他、
〇 相続財産の受取請求ができないまま、
その請求権が、時効により消滅してしまうというリスクもあります。
相続税においても、
〇 遺産分割を要件とする優遇措置の適用を受けられなくなり、
相続税の納税額が増す可能性が高くなります。
※
遺産が未分割の場合の相続税の申告については、
「遺産未分割のデメリットと相続税申告」をご確認ください。
遺産分割協議の方法と参加者

遺産分割協議に決められた方法はありません。
相続人が、全員、同じ場所に集まる必要はなく、
手紙や電話、メールなどにより、協議を進めることも可能です。
しかしながら、
どんな方法にせよ、必ず共同相続人の全員が参加しなければなりません。
一人でも不参加者がいれば、その協議は無効となります。
また、
〇 相続人に未成年者がいる場合には、
- 法定代理人(親権者、両親がいれば二人とも)
- 家庭裁判所で選任された特別代理人(未成年者と親権者間で利益が相反するとき)
〇 成年被後見人がいる場合には、
- 家庭裁判所で選任された成年後見人
〇 行方不明者がいる場合(失踪宣告の申し立てが認められていない場合)には、
- 家庭裁判所で選任された財産管理人
の参加が必要です。
なお、
相続人に胎児がいる場合には、
出生後に分割協議をすることになります。
遺産分割協議では、
相続人全員が合意すれば、
法定相続分とは異なる割合で、遺産を分割することも可能です。
※
法定相続分については、
「相続人と相続分|法定相続人と法定相続分」をご確認ください。
ただし、
遺産分割協議をまとめるためには、相続人全員の合意を得なければならないということを考えると、
基本的には、法定相続分で分割し、法定相続分で分割できない財産について、遺産分割協議を行う
方法が、最も争いに発展しないように思います。
加えて、
相続人の中に、
〇 故人から生前贈与などによる利益を受けた者がいる場合には、
- 受益分だけ、財産を減らして相続させようという特別受益
※
特別受益については、
「特別受益|民法の定めと税法の定め」をご確認ください。
〇 故人の財産の維持・増加に、特別の貢献をした者がいる場合には、
- 特別な貢献をした分だけ、財産を多く相続させようという寄与分
※
寄与分については、
「寄与分と特別寄与料|制度の内容と相続税申告」をご確認ください。
などを考慮して、分割する財産を加減していきます。
※
相続人全員の同意があれば、
特別受益や寄与分を考慮しなくても、問題ありません。
また、
〇 相続人の一人が、故人の事業を承継した場合には、
- その事業に関係する財産は分割せず、
- 後継者である相続人が引き継ぐ
などと、
それぞれの相続の状況に柔軟に対応して、
財産を分割していくことが大切です。
遺産分割協議のやり直し

遺産分割協議をやり直しは、相続人全員の合意があれば、可能と考えられています。
しかしながら、
相続税法上は、一度まとまった遺産分割をなかったことにはできず、
遺産分割協議のやり直しは、新たに
- 譲渡
- 贈与
- 交換
が行われたものとされ、
- 譲渡所得税
- 贈与税
などの課税が行われます。
したがって、
遺産分割協議のやり直しは、基本的には行うべきではありません。
遺産分割協議をやり直さないようにするためには、
遺産分割協議前に、
- 相続人
- 相続財産
について、事前調査をしっかり行うべきです。
事前調査において、
- 相続人が確定した際は、家系図
- 相続財産が確定した際は、相続財産目録
を、作成しておきます。
遺産分割協議書の書き方


遺産分割協議書には、
- 故人が亡くなった年月日
- 故人の住所・氏名
- 故人の相続財産に関する遺産分割協議であること
- 相続人のそれぞれについて、相続財産の名称・割合・金額
- 遺産分割協議が成立した年月日
- 相続人の氏名・住所
を記載します。
遺産分割協議書は、手書きでも可能ですが、
後から加筆や修正ができるため、パソコンを用いるのが一般的です。
ただし、
パソコンで作成する場合には、
相続人全員の合意があったことを示すために、
住所・氏名は、相続人全員がそれぞれ手書きで記入します。
また、
遺産分割協議書には、相続人それぞれの押印が必要です。
※ 登記手続き、および相続税申告手続きのため、実印による押印をお勧めします。
遺産分割協議書が複数枚になる場合は、
ホチキス止めしたうえで、契印をします。
作成枚数については、1通で問題ありません。
(相続人の人数分作成することもできます。)
1通のみ作成する場合は、原本保管者以外は、コピーを保管します。
公証役場で、遺産分割協議書を公正証書にすることもできます。
相続放棄と遺産分割協議

相続人には、相続を放棄することが認められており、
相続の放棄が認められた場合、相続を放棄した者は、遺産分割協議に参加する必要がなくなります。
※
相続の放棄については、
「相続の放棄|手続きと相続税申告」をご確認ください。
3. 家庭裁判所の調停による遺産分割

- 相続人間での遺産分割協議が調わない場合
- 相続人の一人が、遺産分割協議への参加を拒否している場合
- 遺言の真偽が不明である場合
などには、
家庭裁判所に、調停の申し立てをすることができます。
調停では、
裁判官と調停委員が相続人の間に入り、
協議をまとめるように、方針を示してくれます。
調停がまとまらない場合には、
家庭裁判所による審判の手続きに入ります。
審判では、
裁判のように、裁判官が遺産分割協議の結論を出します。
この審判に対しても不服を申し立てた場合には、
裁判所での審理に移行します。
あとがき

遺産分割にあたっては、
上記に加えて
- 相続税
- 納税資金
- 近々起こり得る二次相続
をも、よく検討することが得策です。
故人の遺産を、
争うことなく、大切に、承継してくださればと思います。