財産分与

民法において、
協議上の離婚をした者の一方には、
相手方に対しての、財産分与請求権が認められています。
財産分与を行った者に対する税金
財産分与の法的性質と課税

協議上の離婚をした者の一方から、
相手方に対し、財産分与が行われた場合には、
「財産分与に関し、当事者の協議等が行われて、その内容が具体的に確定され、
これに伴い金銭の支払い、不動産の協議等の分与が完了すれば、
この財産分与の義務は消滅するが、
この分与義務の消滅は、
それ自体、一つの経済的利益ということができることから、
財産分与として、不動産等の資産を譲渡した場合、
分与者は、これによって、
分与義務の消滅という経済的利益を享受したことになる」
という最高裁判決(昭和50.5.27)により、
財産分与は、財産分与請求権の消滅を対価とした、資産の譲渡であり、資産の贈与ではない
ことが結論付けられました。
※
財産分与請求権は、
- 婚姻中に夫婦が協力して蓄積した財産の清算
- 有責配偶者の相手方配偶者に対する慰謝料
- 離婚後において生活に困窮する配偶者に対する扶養
としての性質を有することとされています。(相続税法基本通達9-8解説)
そして、
東京地裁判決(平成3.2.28)では、
「離婚に伴う財産分与として、資産を取得した場合には、
取得者は、
財産分与請求権という経済的利益を消滅させる代償として、当該資産を取得したことになるから、
その資産に要した金額は、原則として、
その財産分与請求権の価額と同額になるものと考えるのが相当である」
として、
譲渡所得を構成する譲渡収入金額は、分与時の分与財産の価額(時価)である
ことを判示しています。
したがって、
分与財産が、不動産や株式である場合には、
その不動産や株式を、
財産分与時の時価で、譲渡したものとされ、
資産保有期間中に潜在的に生じていた価値の増加益が、実現したこととなります。
※
分与財産が金銭である場合には、
金銭に、保有期間中の価値の増加は認められないため、
いずれの課税もありません。
譲渡所得税の特例

この場合の譲渡所得については、
「居住用財産を譲渡した場合の特別控除の特例」の適用が可能ですので、
譲渡所得が3,000万円以下であれば、所得税が算出されることはなく、
譲渡所得が3,000万円を超え、所得税が算出されるとしても、
「居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例」を適用することができますので、
算出される所得税は、
居住用財産以外に課される譲渡所得税に比べて、優遇されます。
【居住用財産を譲渡した場合の特別控除(特別控除:3,000万円)】
居住用財産を譲渡し、譲渡所得が生じた場合には、譲渡所得の金額から、3,000万円を控除することが認められています。
※
適用要件、手続き等については、
「国税庁|No.3302 マイホームを売ったときの特例」をご確認ください。
【居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例】
居住用財産を譲渡し、一定の要件を満たす場合には、
下記のように、
長期譲渡所得の税率が、通常の場合よりも低い税率で、
所得税を計算できます。
【軽減税率の特例における所得税額】
- Aが6,000万円以下: A×10%
- Aが6,000万円超:(A-6,000万円)×15% + 600万円
A:課税長期譲渡所得金額
※
適用要件、手続き等については、
「国税庁|No.3305 マイホームを売った時の軽減税率の特例」をご確認ください。
上記の特例は、
居住用財産を、配偶者(または特別関係者)に譲渡した場合には、
適用を受けることができませんが、
離婚に伴う財産分与の場合は、
離婚後に譲渡が行われ、
譲渡時には、すでに配偶者ではないということから、
特例の適用が認められます。
また、
戸籍の除籍前に財産分与があった場合でも、
その後、すみやかに除籍手続きが行われる場合には、
その譲渡については、
戸籍の除籍後に、効力が発生したものとされ、
特別控除が認められています。
ただし、
居住用財産の引渡しは、離婚の成立(除籍)後に行うことが、
特例適用を考えると、やはり確実となります。
財産分与を受けた者に対する税金
分与を受けた財産の取扱い

上記のように、
離婚に伴う財産分与は、
贈与ではなく、譲渡とされていますので、
財産分与を受けた者に対して、贈与税の課税はありません。
ただし、
分与財産の額が、
- 婚姻中の、夫婦の協力によって得た財産の額、その他一切の事情を考慮しても、なお多すぎる場合
- 贈与税または相続税を免れるために離婚したと認められる場合
には、
- その多すぎる部分
- その離婚により取得したすべての財産
は、贈与によって取得したものとされます。
また、
分与された財産については、
分与者の取得時期・取得費を引き継がず、
- 取得時期は、財産分与を受けた時
- 取得費は、分与時の分与財産の価額(時価)
となります。
不動産取得税

不動産取得税については、
取得不動産のうち、夫婦共有財産の清算部分には、不動産取得税は、課税されない
こととなっています。
ただし、
取得不動産のうち、慰謝料・養育費等に対応する部分には、
不動産取得税が課税され、
その割合は、
- 離婚協議書・調停調書・判決でその割合が確定している場合:確定している割合
- 割合が確定していない・定めがない場合:50%
となります。
贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)との関係

贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)では、
婚姻期間が20年以上の夫婦間の、
- 居住用不動産
- 居住用不動産を取得するための資金
の贈与について、2,000万円を控除することが認められています。
この特例は、
贈与を受けた後、贈与税申告までの間に離婚をしてしまった場合でも、
適用可能とされています。
ただし、
- 贈与を受けた後、すぐに離婚をした
- 贈与を受ける時に、夫婦関係が破綻していた
- 贈与を受ける時に、離婚することが決まっていた
場合には、
贈与ではなく、離婚に伴う財産分与とみなされる可能性があります。
※
贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)については、
「贈与税配偶者控除(おしどり贈与)|要件と注意点」をご確認ください。
慰謝料・養育費

離婚時には、
財産分与と共に、慰謝料や養育費の授受もあるかと思います。
その場合の課税関係については、
【慰謝料・養育費を支払う者】
- 慰謝料:金銭で支払う場合には、課税はなし。金銭以外で支払う場合には、譲渡所得税が課税
- 養育費:金銭で支払うため、課税はなし
【慰謝料・養育費を受け取る者】
- 慰謝料:損害賠償金として、所得税上の非課税
- 養育費:扶養義務を果たすために随時支払われる生活費・教育費には、所得税・贈与税は課税なし
となります。
あとがき

離婚に伴い、財産を分け合うとき、
税金はどうなるのかなと不安になることもあると思います。
そうした不安を解消するため、
- 財産分与を行った者
- 財産分与を受けた者
に分けて、その課税関係を解説しました。
課税関係が生じた場合でも、
適用できる特例について、解説していますので、
内容を、よくご確認くださればと思います。