遺贈とは

故人には、
生前と同様、死後においても、
財産を処分する自由が、法的に保障されています。
そして、その、
遺言によって、財産を処分すること
を、遺贈といいます。
ただし、
遺留分を侵害して、財産を処分することはできません。
※
遺留分については、
「遺留分と遺留分侵害額請求」をご確認ください。
受遺者

受遺者とは、
遺言により、財産を取得させる相手方
をいい、
- 胎児
- 人格のない社団等
- 法人
であっても、受遺者となることができます。
※
相続欠格者は、
遺贈により、財産を取得することはできません。
※
胎児が、死産であった場合には、
初めからいなかったものとされます。
※
- 代表者
- 管理者
の定めのある人格のない社団等が、
遺贈により、財産を取得した場合には、
個人とみなされ、相続税の納税義務を負いますが、
その財産が、
- 公益事業の用に供され、
- 遺言者の特別関係者が、その公益事業において、特別の利益を得ていない
ことが認められれば、
相続税の非課税規定が適用されます。
※
法人が、遺贈により取得した財産の価額は、
法人税の益金となり、相続税の課税関係は生じません。
ただし、
- 持分の定めのない法人
- 特定一般社団法人
については、
一定の場合に、個人とみなされ、
相続税が課税されることがあります。
※
遺言者が、法人に、財産を遺贈した場合には、
その財産を、
相続開始の時における時価で、譲渡したものとみなして、
譲渡所得課税が行われますが、
この準確定申告において納税すべき所得税は、
故人の未納公租公課として、
相続税において、債務控除を受けることができます。
(住民税は、賦課期日が翌年1月1日であるため、
納税義務を負いません。)
遺贈の無効・取消し

遺贈は、遺言事項のうちの一つであるため、
遺贈の無効や取消しは、遺言と同じ扱いとなり、
- 受遺者が、遺言者より先に亡くなった場合
- 相続開始の時に、相続財産の中に、遺贈の目的が存在しなかった場合
にも、その遺贈は無効になります。
※
遺言については、
「遺言|遺言の要式と撤回、デメリット」をご確認ください。
包括遺贈と特定遺贈
包括遺贈

包括遺贈とは、
- 相続財産の全部
- 相続財産の一定の割合
を指定した遺贈
をいい、
包括受遺者は、
遺言で指定された割合分の相続財産を取得することができます。
ただし、
負の財産(債務)に対しても、
遺言で指定された割合分の義務を負います。
このように、
包括遺贈者は、相続人と同一の権利義務を有するものと位置づけられており、
包括遺贈の承認および放棄についても、相続の承認および放棄の規定が適用されます。
※
相続の承認については、
相続の放棄については、
「相続の放棄|手続きと相続税申告」を、
ご確認ください。
※
包括遺贈の場合も、限定承認が認められています。
また、
包括受遺者も、遺産分割協議に参加する必要がありますので、
協議に参加して、
自身は財産を取得しないという内容の遺産分割協議に、
合意(事実上の放棄を)することができます。
なお、
包括遺贈者と相続人との違いとしては、
以下の事項が挙げられます。
- 遺言者より先に、包括受遺者が亡くなった場合、包括遺贈に、代襲はありません。
- 相続の放棄や包括遺贈の放棄があった場合には、放棄者以外の相続人の相続分は増加しますが、相続人でない包括受遺者の包括遺贈の割合が変動することはありません。
- 包括受遺者は、遺留分権利者になることができません。
- 包括受遺者は、持分を登記しなければ、第三者に対抗することができません。
- 法人も、包括受遺者になることができます。
※
相続人については、
「相続人と相続分|法定相続人と法定相続分」をご確認ください。
特定遺贈

特定遺贈とは、
「土地を、Aに取得させる」というように、
遺言により、特定の財産を指定して、受遺者に取得させること
をいいます。
なお、
特定遺贈の場合は、包括遺贈の場合と異なり、
遺言に指定がない限り、受遺者が、相続債務を負担する義務はありません。
また、
受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができます。
放棄の期限や方式は、特に定められていませんが、
受遺者が、
相続人等の定めた相当期間内に、
- 遺贈の承認
- 遺贈の放棄
の意思表示を行わなかった場合には、
遺贈を承認したものとみなされます。
相続税法の規定の適用

相続税の規定の適用については、
包括遺贈と特定遺贈のそれぞれで、下記のようになります。
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※
相続税法の規定については、下記をご確認ください。
遺贈の放棄があった場合には、
特定遺贈であっても、包括遺贈であっても、
遺贈の目的財産は、相続財産に戻りますので、
その財産について、
共同相続人間で、遺産分割協議を行うことになります。
※
遺産分割協議については、
「遺産分割の3つの手続き|遺産分割協議を中心に」をご確認ください。
ここで、
相続税の申告後に、遺贈の放棄があった場合には、
- 更正の請求(その放棄を知った日の翌日から4か月以内)
- 修正申告
- 期限後申告
が認められています。
※
遺贈の放棄者と他の相続人との間で、税負担の調整をすることも可能で、
その場合は、
上記の手続き(更正の請求・修正申告・期限後申告)は不要です。
ただし、
遺贈の放棄者に、相続税の2割加算の規定が適用されていた場合には、
その放棄者および他の相続人の全員が、上記の手続きを行わなければ、
2割加算分の還付を受けることはできません。
条件付遺贈と負担付遺贈
条件付遺贈

遺言者は、遺贈を行う際に、
「〇〇を条件に、Aに土地を遺贈する」というように、
遺贈に条件を付けることができ、
これを、条件付遺贈といいます。
遺言自体の効力は、遺言者の死亡時に発生しますが、
このときは、まだ条件が付いた状態であるため、
財産を取得することができず、
その条件が守られた(成就した)ときに、
条件がはずれて、財産を取得できることになります。
(条件が成就する前に、受遺者が亡くなった場合には、
その遺贈は、無効になります。)
したがって、
相続税法においても、
条件付遺贈の受遺者が財産を取得するのは、
その条件の成就時であることが通達されており、
条件の成就日の翌日から10か月以内に、
相続税の申告をすることとしています。
受遺者以外の者が、すでに相続税の申告をした後に、
条件が成就し、その受遺者が財産を取得した場合には、
- 受遺者:期限後申告
- 受遺者以外のすでに相続税申告済みの者:修正申告または更正の請求
をすることが認められています。
なお、
付与する条件に制限はありませんが、
成就したことが、明確に判断できる条件でなければ、
条件の成就をめぐって、争いが生じる恐れがあります。
負担付遺贈

「Bに家屋を遺贈する代わりに、Bは、Cに300万円を与えなければならない」というように、
受遺者に、
財産を取得させる代わりに、一定の義務を負わせるように遺言する
ことを、負担付遺贈といいます。
負担付遺贈においては、
受遺者は、
遺贈の目的の価額を限度に、その義務を、負担すればよい
こととされています。
上記の例で、
遺贈された家屋の価額が、280万円であるならば、
Bは、
Cへ、300万円ではなく、280万円を与えればよい
ということです。
この場合、
法律的には、負担付遺贈自体が無効になるわけではなく、
負担が利益を超える部分(上記の例では20万円)が無効になるものと解されています。
相続税の申告においては、
負担付遺贈により取得した財産の価額は、負担額を控除した後の価額とすることができますが、
控除できる負担は、
- 金銭的に見積もることができ、
- 確実と認められるもの
に限られています。
受遺者が、その義務を履行しない場合には、
まずは、
相続人がその受遺者に、相当の期間を定めて、義務の履行を催告し、
受遺者が、その期間を過ぎても義務を履行しないときは、
家庭裁判所に、遺言の取消しを請求することができます。
なお、
この遺言の取消しが、相続税の申告後に行われた場合には、
事後的修正の必要が認められ、
すでに相続税申告済の者は、
- 修正申告
- 更正の請求
を行うことが認められると考えられています。
あとがき

遺言により、死後の財産を処分することを遺贈といい、
遺贈には、包括遺贈と特定遺贈があります。
さらに、
それぞれに、条件付遺贈と負担付遺贈が認められています。
それぞれの内容について、
遺言の記事「遺言|遺言の要式と撤回、デメリット(リンクは前述済)」と併せて、
ご確認くださればと思います。