単純承認

単純承認とは、
故人の権利義務(財産と債務)の全部を、無条件・無制限に承認することをいい、
相続人が、
- 相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、相続の限定承認または放棄をしなかった場合
- 相続の限定承認または放棄をする前に、相続財産の全部または一部を処分した場合
には、
相続人は、相続の単純承認をしたものとみなされます。
※
相続人が未成年者である場合、
その法定代理人が、相続財産の処分を行ったときは、
相続人が、単純承認をしたものとみなされます。
※
相続財産の処分については、判決では、
- 相続債務を弁済するために、相続財産を譲渡した場合
- 相続債権を取り立てて、これを相続人が収受した場合
も、相続財産の処分に該当する、としています。
また、
相続人が、
- 相続の限定承認
- 相続の放棄
をした後に、
相続財産の全部または一部を
- 隠匿し、自分のしたいように、消費したこと
- 悪意で、相続財産目録に記載しなかったこと
が発覚した場合には、
限定承認や放棄の利益を認めず、単純承認したものとみなされます。
※
「隠匿」には、債権者の追及を免れること目的とする詐害的な意思が、
「悪意」には、財産を隠匿する意思が、
必要とされています。
※ 相続の放棄については、「相続の放棄|手続きと相続税申告」をご確認ください。
相続財産の取得時期と取得価額

単純承認の場合、
相続財産の取得時期と取得価額は、故人が取得した時期および取得価額を引き継ぎます。
したがって、
相続の時点で、所得税の課税関係が生じることはありません。
限定承認

限定承認とは、
相続財産の価額を限度に、債務を弁済することを条件として、相続の承認をすること
をいいます。
※
故人が納付すべき国税についても、
他の債務と同様に、限定承認の効果が及ぶため、
相続人は、
相続により取得した財産の価額を限度として、
故人の国税を納付すればよいこととされています。
限定承認の手続き

限定承認をするためには、
相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所に申し立てをしなければなりません。
また、
相続人が数人あるときは、相続人の全員が、限定承認をしなければなりません。
ただし、
相続人のうちの一人または数人が、相続の放棄をし、
その他の相続人の全員が、限定承認をすることは可能です。
相続放棄の手続きと比較すると、
限定承認の方が、手続きが煩雑で、費用も高く、期間も長期間を要します。
限定承認の撤回は認められず、
限定承認が受理されると、相続財産の清算手続きが行われますが、
故人と相続人の財産は、切り離して個別のものとして清算されるため、
相続人の、故人への権利義務が、混同によって消滅することはなく、そのまま存続する
という点に注意が必要です。
例えば、
相続人が、限定承認する前に、故人の債務保証をしていた場合などには、
相続人は、その債務の全額について責任を負わなければなりません。
相続財産の管理義務

限定承認をした相続人には、自己の固有財産と同一の相続財産管理義務が発生します。
※
相続人が数人あるときは、
家庭裁判所が、相続人の中から、相続財産管理人を選任します。
限定承認を選択すべきケース

限定承認は、
相続財産の範囲内で、相続債務を負担する条件付相続と解釈できるため、
相続財産と相続債務のいずれが多いか、分からない場合には、
限定承認を選択することが良策と考えられます。
また、
相続財産を超えた相続債務がある場合で、
相続財産のうちに、相続人の自宅など、故人から承継すべき財産があるときには、
相続の放棄ではなく、限定承認を選択すれば、
その財産の価額に相当する債務の弁済を行うことで、
その財産を、手元に残すことができます。
限定承認の場合には、
競売により、財産の換価手続きを行わなければならないこととされていますが、
相続人が承継すべき財産については、
相続人が、先買権を行使して、取得することが認められているからです。
※ 先買権
相続人が、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従い、
その鑑定価格以上の金銭を支払うことにより、
相続財産を、取得することができる権利
相続財産の取得時期と取得価額

限定承認の場合、
相続財産は、相続開始の時に、故人から相続人に、時価で譲渡したものとみなされます。
したがって、
相続財産の時価が、故人の取得価額を上回っている場合には、所得税の課税関係が生じます。
※
この場合、
相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に、
所得税の準確定申告を行わなければなりません。
ただし、
この所得税も、故人の債務となり、限定承認の効果が及ぶため、
この所得税と他の債務との合計額が、相続財産の時価を超えている場合には、
納税の必要はありません。
相続税の申告

限定承認の場合には、
相続財産が、相続債務を大きく上回ることはほとんどないため、
実際問題として、
限定承認の場合に、相続税の申告義務が生ずることはない
と考えられます。
あとがき

故人の権利義務(財産と債務)の全部を、
無条件・無制限に承認したくない場合には、
- 相続の限定承認
- 相続の放棄
を選択することが、認められています。
どちらも、適用を受けるためには、
相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、
家庭裁判所に申立てを行わなければなりません。
申立ての期間は3か月と短くなっているため、
両制度について、
事前に、内容をよくご確認くださればと思います。