生命保険金の取扱い
保険金受取人を、故人以外の者に指定している場合

遺産分割の対象になるかどうか
この場合の生命保険金は、
故人の死亡を保険事故として、
保険会社から、受取人に直接支払いが行われるものであり、
故人から相続により継承するものではないため、
保険受取人固有の財産として、遺産分割の対象にはなりません。
最高裁の判決でも、
「保険金請求権は、保険契約の効力発生と同時に、相続人固有の財産となり、故人の遺産より離脱しているものと解するべきである」
としています。
相続の限定承認をした場合
生命保険金は、受取人固有の財産であるため、
受取人が、相続について、限定承認をした場合に、
その生命保険金を、相続債務の弁済に充てる必要はありません。
※
限定承認については、
「相続の限定承認|単純承認と限定承認」をご確認ください。
相続を放棄した場合
生命保険金は、受取人固有の財産であるため、
受取人は、相続を放棄しても、生命保険金を受け取ることができ、
また、
生命保険金を受け取っていても、相続を放棄することができます。
※
相続の放棄については、
「相続の放棄|手続きと相続税申告」をご確認ください。
保険金の受取人が指定されていない場合

保険金の受取人が指定されていない場合には、
「保険約款に、『保険受取人の指定がない場合には、法定相続人に支払う』と記載されているときは、故人が、保険金受取人に、法定相続人を指定したものと解すべきである」
という裁判例を根拠に、
故人の法定相続人に、保険金請求権が与えられるものと考えられています。
※
法定相続人については、
「相続人と相続分|法定相続人と法定相続分」をご確認ください。
したがって、
保険金受取人に、法定相続人を指定していることと同意となりますので、
故人の相続財産とはならず、遺産分割の対象にもなりません。
また、
- 相続の限定承認
- 相続の放棄
をした場合の取扱いも、
上記の「保険金受取人を故人以外の者に指定している場合」と同様になります。
保険金受取人を故人自身に指定している場合

遺産分割の対象になるかどうか
保険金の受取人を、故人自身に指定している場合には、
故人の死亡により、
保険金請求権は、いったん故人に帰属し、故人の相続財産となるため、
遺産分割の対象となります。
※
遺産分割については、
「遺産分割の3つの手続き|遺産分割協議を中心に」をご確認ください。
相続の限定承認をした場合
共同相続人が、
相続の限定承認をした場合には、
保険金は、相続債務の弁済原資としなければなりません。
相続の放棄をした場合
共同相続人が、
相続の放棄をした場合には、
その放棄者は、生命保険金を受け取ることはできず、
保険金を受け取った後に、
相続の放棄をすることも、できなくなります。
保険金受取人の指定は慎重に!

上記のように、
保険金受取人が誰であるかによって、状況が異なってきますので、
「保険金受取人を、誰に指定するか」については、
慎重に検討する必要があります。
生命保険金は特別受益持戻しの対象になるか

死亡保険金請求権は、
原則として、特別受益の持戻しの対象にはなりませんが、
その金額が、その他の共同相続人と比較して不公平なほど、著しく高額である場合には、
持戻しの対象になることとされています。
※
特別受益の持戻しについては、
「特別受益|民法の定めと税法の定め」をご確認ください。
死亡保険金の相続税法上の取扱い
相続税課税価格に算入する金額

受取人の指定のある保険金請求権は、
民法においては、故人の相続財産ではありませんが、
相続税法においては、
「死亡保険金の経済的実質は、相続財産の取得と同様である」として、
保険金受取人が受け取った死亡保険金のうち、以下の金額を、
相続税課税価格に算入することとしています。
A×(B/C)
A:保険金の額
B:Cのうち、故人が負担した保険料の金額
C:その契約について、故人の死亡時までに払い込まれた保険料の全額
したがって、
相続税法においては、
死亡保険金は、本来の相続財産と区別して、
みなし相続財産という位置づけになっています。
なお、
死亡保険金は、
- 保険金受取人が相続人である場合には、相続により、
- 保険金受取人が相続人以外の者である場合には、遺贈により、
取得したものとみなされます。
※
遺贈については、
「遺贈|包括遺贈と特定遺贈,条件付遺贈と負担付遺贈」をご確認ください。
生命保険金に対する非課税

生命保険金を取得した者が相続人であれば、
相続により取得したとみなされる保険金のうち、以下の金額は、
非課税として、相続税課税価格から控除することができます。
- F ≦ D である場合:E
- F > D である場合:D×(E/F)
D:保険金非課税限度額(500万円×法定相続人の数)
E:その相続人が取得した保険金の額
F:相続人全員が取得した保険金の合計額
※
この規定は、
相続人が生命保険金を取得した場合に適用可能となりますので、
相続人以外の者が生命保険金を取得しても、
適用を受けることはできません。
また、
相続の放棄があった場合には、
Dの非課税限度額を計算するうえでは、
その放棄はなかったものとして、
法定相続人の数に、相続を放棄した者を含めますが、
相続を放棄した者は、
非課税規定を適用することはできません。
その他、
故人が養子縁組を行っている場合、
Dの非課税限度額を計算するうえで、
法定相続人の数に含めることができる養子の数は、
- 故人に実子がいる場合:1人まで
- 故人に実子がいない場合:2人まで
となります。
※
養子縁組については、
「孫との養子縁組|制度の内容とメリット・デメリット」をご確認ください。
保険金と共に受け取る剰余金等の取扱い

保険会社から、死亡保険金を受け取る際、
その死亡保険金と一緒に、
- 社員配当金
- 契約者配当金
- 前納保険料
- 未経過保険料
- 割戻金
を、受け取ることがあります。
これらの取扱いについて、国税庁は、
相続または遺贈により取得したものとみなされる保険金には、保険契約に基づき分配を受ける剰余金、割戻しを受ける割戻金および払戻しを受ける前納保険料の額で、保険契約に基づき、保険料とともに受取人が取得するものを含む
国税庁|相続税法基本通達3-8
と通達しています。
ここでのポイントは、
「保険料とともに」というところで、
これらの支払いが、保険料と合算して行われた場合には、
その合算額を、非課税として控除できる金額に含めることができる
ということになります。
※
故人が、契約者貸付金の借入れをしていた場合には、
契約者貸付金を控除した後の金額で判断します。
ただし、
遅延利息については、
非課税として控除できる金額に含めることはできず、
受取人の所得税において、雑所得となります。
入院保険金の取扱い

入院保険金は、
故人の入院を保険事故として支払われる保険金であるため、
保険金請求権は、
故人に帰属し、故人の相続財産となるため、
遺産分割の対象となります。
ただし、
この場合の相続財産は、
みなし相続財産ではなく、本来の相続財産ですので、
非課税として控除できる保険金の対象にはなりません。
かんぽ生命の特約還付金の取扱い

簡易保険は、
基本的に、終身型の積立保険で、
主契約に付加する特約も、終身型となっており、
契約期間中に、
- 被保険者の死亡
- 特約の解除
- 特約の失効
- 特約の変更
- 特約保険金の支払免責
などの事由が生じた場合には、
それまでの特約保険料に係る積立部分が返還されることになっています。
したがって、
特約還付金は、契約者(故人)への返還金であり、
故人に帰属し、故人の相続財産となるため、
遺産分割の対象となります。
また、
上記の入院保険金と同様、特約還付金も、
みなし相続財産ではなく、本来の相続財産ですので、
非課税として控除できる保険金の対象にはなりません。
死亡保険金と同様の取扱いをしてしまいがちですが、
取扱いが異なり、相続税にも影響を及ぼしますので、
注意が必要です。
※
かんぽ生命からの「保険金等 振込内容のお知らせ」も2通届き、
別々に振込みが行われます。
あとがき

生命保険金は、
相続税法上、みなし相続財産として、相続税課税価格に算入されます。
ただし、
相続人の生活基盤を確保してあげたいという故人の意思を尊重するため、
法定相続人の数に応じた非課税枠が設けられています。
それらについて、詳しく解説していますので、
内容をご確認くださればと思います。