制度の内容
配偶者居住権とは

配偶者居住権とは、
配偶者が、居住建物の全部を、無償で使用・収益する権利
をいいます。
配偶者居住権の取得

次の場合に、
配偶者は、配偶者居住権を取得することができます。
相続開始時に、
配偶者が、故人の建物に居住していた場合で、
1.遺産分割により、配偶者が配偶者居住権を取得するものとされたとき
2.配偶者居住権が、配偶者に遺贈されたとき
※
遺贈については、
「遺贈|包括遺贈と特定遺贈,条件付遺贈と負担付遺贈」をご確認ください。
※
故人が、相続開始時に、
その居住建物を、配偶者以外の者と共有していた場合には、
配偶者居住権を設定することはできません。
3.家庭裁判所が、審判において、配偶者に、配偶者居住権を取得させることを定めたとき
(次の場合に、定めることが可能です。)
- 共同相続人間で、配偶者が配偶者居住権を取得することを合意している場合
- 配偶者の申し出に伴い、居住建物所有者の不利益を考慮してもなお、配偶者の生活維持のため、配偶者に、配偶者居住権を取得させることが、特に必要と認められる場合
※
相続人が複数の場合に、共同相続人となります。
※
遺産分割、家庭裁判所による審判については、
「遺産分割の3つの手続き|遺産分割協議を中心に」もご確認ください。
配偶者居住権の存続期間

配偶者の終身の間
ただし、
- 遺産分割協議または遺言に、別段の定めがあるとき
- 家庭裁判所が、遺産分割の審判で、別段の定めをしたとき
には、その定めるところによります。
※
遺言については、
「遺言|遺言の要式と撤回、デメリット」をご確認ください。
配偶者居住権の登記

配偶者居住権は、
建物に対して、登記を行うことができ、
その登記により、
居住建物の物権取得者その他第三者に、対抗することが可能となります。
※ 登録免許税:建物の固定資産税評価額×2/1,000
配偶者居住権の使用

配偶者は、
居住建物を、従来の用法に従って使用しなければならず、
その使用に伴う必要費用(固定資産税等)を負担します。
※ 居住されていなかった部分を、居住用の用に供することは可能です。
また、
所有者の承諾を得ずに、改築・増築することはできませんが、
修繕することは可能です(所有者に修繕の通知は必要)。
さらに、
所有者の承諾があれば、
居住建物を第三者に賃貸して、収入を得ることも可能です。
配偶者居住権の譲渡

配偶者居住権は、譲渡することができません。
配偶者居住権の消滅

配偶者居住権は、配偶者の死亡時に消滅します。
また、
配偶者が、配偶者居住権の使用に関する定めに違反した場合に、
居住建物所有者の是正勧告に、相当の期間応じなかったときは、
居住建物所有者は、配偶者に対して、
配偶者居住権の消滅を意思表示し、消滅させることができます。
配偶者居住権が消滅した場合には、
配偶者は、居住建物を所有者に返還しなければなりません。
ただし、
配偶者が、居住建物の持分を共有しているときは、
所有者は、返還を求めることはできません。
配偶者居住権の相続税申告
配偶者居住権の評価

【配偶者居住権が設定された建物の評価】
① 配偶者居住権付建物の価額(建物所有権者部分)
A×{(B-C)/B}×D
② 配偶者居住権の価額(配偶者部分)
A- ①
A:建物の固定資産税評価額
B:耐用年数-築後経過年数
※ 耐用年数は、
「減価償却資産の耐用年数等に関する省令に定められている耐用年数(住宅用)」に、
1.5を乗じた年数です。
(6か月以上の端数は1年とし、6か月未満の端数は切り捨て)
C:存続年数(6か月以上の端数は1年とし、6か月未満の端数は切り捨て)
- 配偶者居住権の存続期間が、配偶者の終身の間である場合:配偶者の平均余命年数(厚生労働省「完全生命表」の定めによるもの)
- 上記以外の場合:遺産分割協議等により定められた配偶者居住権の存続期間の年数(配偶者の平均余命年数を限度とします。)
D:存続年数に応じた民法の法定利率(年3%)による複利現価率


【配偶者居住権が設定された土地の評価】
① 配偶者居住権付敷地の価額(建物所有権者部分)
E×F
② 配偶者居住権に基づく敷地利用権の価額(配偶者部分)
E- ①
E:土地の相続税評価額
F:存続年数に応じた民法の法定利率(年3%)による複利現価率
※
配偶者居住権が設定された土地・建物の一部を賃貸している場合の評価については、
国税庁タックスアンサー「No.4666 配偶者居住権等の評価」をご確認ください。
配偶者居住権の評価にあたっての注意点

相続税法上の評価方針
配偶者居住権は、
譲渡できないことから、客観的交換価値(時価)がないものと考えられますが、
相続税法においては、
ゼロ評価とされず、
相続税法第22条に対する別段の定めとして評価(法定評価)することとされています。
配偶者の平均余命年数
配偶者が、
- 平均余命年数より前に短期間で亡くなった場合
- 平均余命年数より長く生存した場合
であっても、
配偶者居住権の価額は、平均余命年数に基づいて計算して問題ありません。
小規模宅地等(居住用)の特例との関係
配偶者居住権に基づく敷地利用権(配偶者部分)については、
取得者が、配偶者であるため、
無条件で、小規模宅地等(居住用)の特例を適用することができます。
※
小規模宅地等の特例については、下記をご確認ください。
また、
配偶者居住権付敷地(建物所有権者部分)についても、
小規模宅地等(居住用)特例の要件を満たせば、
適用を受けることができます。
ただし、
その適用は、配偶者部分と併せて330㎡までとなっており、
それぞれの敷地面積は、次の算式により按分した面積となります。
敷地面積×(所有権部分の価額または利用権部分の価額)/(所有権部分の価額+利用権部分の価額)
※ 配偶者は、
小規模宅地等(居住用)の特例の適用を受けなくても、
配偶者の税額軽減(相続税の配偶者控除)の適用を受ければ、
相続税の負担はないため、
★小規模宅地等(居住用)の特例は、配偶者以外の相続人が適用する方が有利となります。
※
配偶者の税額軽減(相続税の配偶者控除)については、
「配偶者の税額軽減(相続税の配偶者控除)|要件と注意点」をご確認ください。
配偶者居住権の消滅による相続税の課税関係
配偶者居住権の存続期間が、
- 終身であっても
- 有期で設定されていても、
配偶者居住権の消滅により、相続税の課税関係は生じません。
したがって、
★一次・二次相続の総額で考えると、配偶者居住権を設定した方が、相続税の負担は軽減されます。
配偶者の生存中に、配偶者居住権の合意解除等があった場合の課税関係
配偶者が、
配偶者居住権の存続期間中に、
- 配偶者居住権を放棄した場合
- 居住建物所有者との間で合意解除した場合
- 配偶者の用法遵守義務違反により、居住建物所有者が配偶者居住権を消滅させた場合
で、
居住建物所有者から、配偶者に、
配偶者居住権の価値に相当する金銭の支払いがないときは、
居住建物所有者に、贈与税が課税されます。
※
相続の放棄については、
「相続の放棄|手続きと相続税申告」をご確認ください。
したがって、
★居住建物を譲渡(売却)する予定がある場合には、配偶者居住権の設定は行わず、配偶者がその居住建物を相続するべきです。
なお、
居住建物の譲渡(売却)時には、
- 居住用財産を譲渡した場合の特別控除(特別控除:3,000万円)
- 取得費加算の特例(相続後3年以内に譲渡した場合)
を適用することができます。
※
居住用財産を譲渡した場合の特別控除については、
「国税庁|No.3302 マイホームを売ったときの特例」をご確認ください。
※
取得費加算の特例については、
詳しく解説していますので、ご確認くださればと思います。
配偶者居住権が設定された土地・建物の物納
配偶者居住権が設定された土地・建物は、
他に充てるべき財産がない場合に、物納に充てることができます。
あとがき

近年の高齢化に伴い、
遺された配偶者は、
伴侶が亡くなった後も、長期間、生活を継続することが一般的となってきました。
こうした状況下では、
配偶者に、
住み慣れた居住環境と共に、一定程度の生活資金を確保してあげるべきですが、
近年は、高齢者の再婚などによって、
配偶者とその他の相続人間の関係が良好でない場合も多く、
そのような場合には、
配偶者は、遺産分割協議で、必要な財産を手元に遺せないことになります。
以上を背景に、
平成30年7月に民法が改正され(令和2年4月1日より施行)、
配偶者が、
住み慣れた居住環境と生活資金の両方を相続できるよう、
「配偶者居住権」が創設されることとなりました。
また、
配偶者居住権の設定により、
配偶者以外の相続人も、
二次相続において、相続税の負担軽減というメリットを享受できるため、
配偶者とその他の相続人間の関係が良好な場合でも、
配偶者居住権の活用を検討するべきと考えます。
ただし、
その設定には、短所もありますので、
上記内容を、よくご確認くださればと思います。