相続時精算課税制度の概要

相続時精算課税制度とは、
直系親族間の生前贈与において、生涯を通じて 2,500万円に達するまでの金額を、贈与税課税価格から控除できる制度です。
ただし、
贈与者の相続において、受贈財産の生前贈与時の価額を、相続税課税価格に加算しなければなりません。
つまり、
受贈時には、贈与税を納めなくていいけれど、
相続時に、その分の相続税を納めてくださいという制度です。
言い換えれば、
贈与者の相続財産を、
2,500万円まで、前倒しで受け取ることができる制度
と捉えることもできます。
なお、
その贈与者からの受贈財産の合計額が 2,500万円を超えるときは、超えた部分に対して 一律20%の贈与税が課税されます。
※ この贈与税は、相続税から控除することができます。

贈与者の要件
- 受贈者の父母または祖父母
- 贈与年の1月1日時点で、60歳以上
※ 住宅取得資金贈与の非課税制度と併用する場合は、60歳未満でも可
住宅取得資金贈与の特例については「住宅取得等資金贈与の非課税|要件と他制度との併用、相続税申告」をご確認ください。

受贈者の要件
- 贈与年の1月1日時点で、20歳以上
※ 令和4(2022)年4月1日以降の相続においては、20歳を、18歳に読み替えます。
- 贈与時に、国内に住所を有している
- 贈与者の子供または孫
※ 簡潔に記載しています。詳しくは、国税庁のホームページをご確認ください。
- 贈与年の翌年2月1日から3月15日までの間に、贈与税申告書とともに、相続時精算課税選択届出書を提出すること
※ 相続時精算課税選択届出書を提出しない場合には、暦年贈与となります。

贈与について
受贈する財産に制限はありません。
また、
2,500万円に達するまで、何回でも受贈できます。
なお、
相続時精算課税制度は、届出のあった二者間にのみ適用されますので、
相続時精算課税制度適用中の贈与者以外からの贈与については、暦年贈与を選択することも可能です。
例えば、
- 父親からの贈与は、相続時精算課税
- 母親からの贈与は、暦年贈与
を選択できます。
相続時精算課税制度のメリット
1. 多額の財産を生前に移転できる

贈与税の負担なく、2,500万円までの財産を、生前に、受贈者に移転できます。
ただし、
贈与者の相続において、受贈財産の受贈時の価額が、相続税課税価格に加算されます。
2. 相続時の争いを防げる

生前に財産を贈与しておくことにより、相続人間の相続争いを防ぐことができます。
※ 暦年贈与と共通の生前贈与のメリットです。
※ 暦年贈与については、「暦年贈与|間違えない暦年贈与の方法」をご確認ください。
ただし、
受贈財産は、
- 特別受益
- 遺留分侵害額請求
の対象となりますので、
相続争いを確実に防げるという訳ではないことも、心にお留め置きください。
※ 特別受益については、「特別受益|民法の定めと税法の定め」をご確認ください。
※ 遺留分と遺留分侵害額請求については、「遺留分と遺留分侵害額請求」をご確認ください。
なお、
相続時精算課税の適用下にあっても、
- 特別受益
- 遺留分侵害額請求
- 詐害行為取消請求
の定めは、暦年贈与の場合と同様です。
3. 相続税課税価格を減額できる

価値が増加する財産の贈与
受贈財産の相続時の価額が、受贈時より増加している場合には、その増加した分だけ、相続税課税価格を減額できたことになります。
贈与者の相続において、相続税課税価格に加算される金額が、
受贈財産の相続時の価額ではなく、受贈当時の価額であるからです。
収益を生み出す財産の贈与
賃貸不動産のように、収益を生み出す財産の生前贈与を行えば、
相続までの間に生み出される収益の累積分だけ、相続税課税価格を減額することができます。
また、
贈与者の課税所得が、受贈者の課税所得より高い場合には、毎年、両者の所得税率の差額分だけ、所得税をも節税できることになります。
ここまでは、暦年贈与と共通の生前贈与のメリットですが、
相続時精算課税制度を選択すれば、上記に加えて、
相続時まで納税を猶予できます。
相続時精算課税制度のデメリット
1. 暦年贈与の基礎控除が使えなくなる

相続時精算課税制度を選択すると、その贈与者からの贈与について、以降、暦年贈与の基礎控除を使うことができなくなります。
相続時精算課税選択届出書を提出した場合、
届出を撤回することはできませんので、
相続までの長期的な視野に立って、その適用を受けるべきか、
検討する必要があります。
2. 相続税課税価格が増額してしまう

受贈財産の相続時の価額が、受贈時より減少している場合には、その減少した分だけ、相続税課税価格が上乗せされたことになります。
これは前述したメリットと、表裏の関係です。
したがって、
価格変動のある財産を受贈し、この制度を適用しようとする場合には、
その財産の将来的な価値について、慎重な検討が必要です。
3. 将来の税制改正に対応できない

この制度を選択すると、
相続までの長い期間に渡り、この制度の適用を受けている状態となります。
そうなると、
この長い期間中に、税制が大きく改正される可能性があり、現行法のもとで慎重に検討した事項も、全く異なる結果になってしまうことも考えられます。
したがって、
このようなリスクがあることも心に留め置く必要があります。
4. 申告の手間がかかる

相続時精算課税制度のもとで、
2,500万円に達するまで、複数回の贈与を受ける場合、
受贈額が少額であったとしても、その受贈年ごとに贈与税の申告が必要です。
そして、
贈与者の相続において、
制度適用時から相続までの間に受贈したすべての財産の価額を、
相続税課税価格に加算することになりますので、
その間の贈与税申告書の控えを、すべて大切に保管しなければなりません。
5. 相続の場合より税負担が増す

生前に不動産を受贈する場合には、相続する場合よりも、不動産取得税と登録免許税の税負担が大きく設定されています。
※ 税率については、下表参照

したがって、
生前に不動産を受贈しようとする場合には、この点もよく検討する必要があります。
※ 上記は、暦年贈与と共通の生前贈与のデメリットですが、相続時精算課税制度のデメリットでも記載しておきます。
相続時精算課税制度を選択すべきケース
1. 相続税がかからない場合

贈与者の相続にあたって、
相続税がかからないことが予想される場合には、
相続時精算課税制度を選択すれば、
- 相続を待つよりずっと早く
- 多額の財産を
- 税負担なく
受贈者に移転できます。
2. 収益を生み出す財産を贈与する場合

前述事項ですが、
収益を生み出す財産を生前贈与すれば、
相続までの収益の蓄積分を、
税負担なく、受贈者に移転できます。
3. 業績の良い法人の株式を贈与する場合

業績の良い法人の株式を所有しており、
子供または孫が、その事業を承継することが決まっている場合には、
相続時精算課税制度を利用して、その法人の株式を、後継者に生前贈与することは、事業承継としてとても有効です。
その理由は、
- 親族間の相続争いにより、その法人の株式が後継者以外に渡ることを防ぐことができ、
さらに、
- 業績の良い法人の株式の価額は、時間の経過とともに増加していくので、相続までの間の株式価値の増加分に対応する相続税の節税にも繋がる
からです。
加えて、
- 早い段階で自社の株式を持つことによって、後継者に、経営者としての覚悟と責任感が生まれ、法人の成長により寄与するようになる
というメリットもあります。
なお、
後継者への自社株の移転にあたっては、「非上場株式等の贈与税の納税猶予」についても、検討が必要です。
また、
後継者への贈与においては、
自社株だけでなく、事業用資産についても、
一定の要件を満たすときは、
個人の事業用資産の贈与税の納税猶予制度の適用を受けることができます。
※
非上場株式等の贈与税の納税猶予については、
個人の事業用資産の贈与税の納税猶予については、
「事業用資産の贈与税の納税猶予|個人版事業承継税制」をご確認ください。
相続税の申告にあたって
受贈者が贈与者より先に亡くなった場合

この場合には、
受贈者の相続人が、相続時精算課税制度に係る権利と義務を承継します。
したがって、
贈与者の相続では、受贈者の相続人が、その贈与者から生前贈与を受け、相続時精算課税制度を適用しているものとして、相続税の申告を行います。
相続税の2割加算

相続税法では、
- 配偶者
- 一親等の血族(代襲相続人となった直系卑属を含む)
以外の者の相続税には、その2割を加算することが定められているため、
祖父母からの生前贈与について、相続時精算課税制度を選択している場合、その孫に相続税が発生した場合には、その孫が代襲相続人でない限り、相続税の2割加算が行われます。
小規模宅地等の特例

相続時精算課税制度適用の有無にかかわらず、
生前に宅地等を受贈した場合、贈与者の相続において、その宅地等の価額が相続税課税価格に加算されたとしても、小規模宅地等の特例を適用することはできません。
したがって、
将来の相続で小規模宅地等の特例が適用可能な宅地等を、生前に受贈しようとする場合には、慎重な検討が必要です。
※ 小規模宅地等の特例については、下記をご確認ください。
物納

相続時精算課税制度適用の有無にかかわらず、
生前に財産を受贈した場合、贈与者の相続において、その財産の価額が相続税課税価格に加算されたとしても、その財産を物納することは認められていません。
その財産は、税制上相続税課税価格に加算されますが、
実際には、受贈時にすでに所有権が移転しており、
相続により取得したものではないからです。
したがって、
相続税が発生した場合には、他の納税手段を確保する必要があります。
あとがき

相続時精算課税制度は、適用期間が長期に渡るため、
途中、思いがけない事柄が発生する可能性があります。
また、
選択すべきかを検討する際に、将来の相続時の状況も推測しなければなりませんが、
将来については、どうしても不確実なため、その判断がとても困難です。
メリット・デメリットをよく理解した上で、
相続時精算課税制度を選択してくださればと思います。