特別受益の持戻し

共同相続人の中に、故人から
- 生前に、特別の金銭的援助や贈与を受けていた
- 特別の財産を、遺言により与えられた
というような特別の利益(特別受益)を受けた者がいる場合には、
相続人間の公平性を確保するため、
それらの特別受益に相当する金額を、相続開始時の財産に含めて、相続分を算定することとされています。
(特別受益の持戻しといいます。)
※ 相続人が複数いる場合に、共同相続人となります。
持ち戻される特別受益は、相続人に対する
- 遺贈
- 生前贈与
ですが、
遺贈には、目的を問わず、すべての遺贈を含み、
生前贈与は、
- 婚姻・養子縁組のための贈与(持参金・嫁入り道具など。結納金や挙式費用は該当しない。)
- 生計の資本としての贈与(不動産の贈与や新規開業準備資金など。通常必要な教育費は該当しない。)
です。
※ 遺贈については、「遺贈|包括遺贈と特定遺贈,条件付遺贈と負担付遺贈」をご確認ください。
なお、
生命保険金は、原則としては、特別受益には該当しませんが、
他の相続人に比して、極めて多額の保険金を受け取った場合には、
特別受益になることがある、とされています。
※
生命保険金については、
「生命保険金|相続税法上の取扱いと非課税」をご確認ください。
特別受益を受けていた相続人の具体的相続分の計算

特別受益を受けていた相続人の具体的相続分は、
(A+B)× 指定相続分または法定相続分 -(遺贈+B)
により、計算されます。
A:故人の相続開始時の財産の価額(遺贈はここに含まれます)
B:生前贈与財産の価額
※ 取得する財産は、具体的相続分+遺贈となります。


※
Bについては、贈与財産が、
- 金銭の場合:贈与時の金額を、相続開始時の貨幣価値に換算した金額
- 不動産の場合:相続開始時の時価
を加算することとされています。
なお、
上記の計算で、特別受益の額(遺贈+B)を控除しきれない場合には、
具体的相続分が0になるだけで、
生前贈与分を返還する必要はないとされています。
この場合、
控除しきれない分は、
他の相続人が、その相続分に応じて負担することになります。
特別受益の代襲

判例では、
生前贈与を受けていた子が、故人より先に亡くなった場合、
子の代襲者である孫が、子に対する特別受益を引き受けるかどうかについて、
孫の相続分を算定するうえで、
子に対する特別受益を持ち戻して計算することが相当である
とされています。(大阪高裁判決 平成27.3.29)
特別受益の持戻しの免除

特定の相続人に、より多くの財産を遺したいという故人の意思を尊重するため、
民法は、特別受益の持戻しの意思表示に従うことを定めています。
特別受益の持戻しの免除について、方法は定められていませんが、
遺言により意思表示を行うことが望ましいとされています。
※ 遺言については、「遺言|遺言の要式と撤回、デメリット」をご確認ください。
配偶者への居住用不動産の贈与または遺贈の持戻しの免除

平成30年7月の民法改正で、
配偶者に対し、居住用不動産の
- 贈与(贈与時に婚姻期間が20年以上)
- 遺贈(遺言者の死亡時に婚姻期間が20年以上)
が行われた場合には、
特別受益の持戻し免除の意思表示があったものと推定することとされました。
なお、
贈与税においては、
婚姻期間が20年以上の配偶者に、
- 居住用不動産
- 居住用不動産を取得するための資金
を、贈与した場合、
その贈与額のうち2,000万円までの金額を、
贈与税課税価格から、控除することができると定められています。
(贈与税の配偶者控除(おしどり贈与))
※ 贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)については、「贈与税配偶者控除(おしどり贈与)|要件と注意点」をご確認ください。
民法の「配偶者への居住用不動産の贈与または遺贈の持戻しの免除」の規定は、
この贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)制度をベースに考案されていますが、
贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)との違いは、以下のようになっています。
- 遺贈も対象にしている(贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)は、贈与のみ)
- 持戻し免除の対象を、居住用不動産に限定している(贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)は、居住用不動産取得するための資金も対象)
- 持戻し免除額に上限はない(贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)は、上限 2,000万円)
また、
配偶者居住権が遺贈の目的とされた場合にも、
特別受益の持戻し免除の意思表示があったものと推定することとされました。
※ 配偶者居住権については、「配偶者居住権|制度の内容と相続税申告」をご確認ください。
相続税と特別受益

遺産分割協議が調った場合には、
相続税において、特別受益を意識することは、あまりありません。
協議による遺産分割の通りに、相続税を計算すればよいだけだからです。
これに対して、
遺産が未分割の場合には、
特別受益を考慮した相続分で、申告をすることとされています。
しかしながら、
特別受益を考慮しても、
特別受益を考慮しない場合と、相続税の総額に違いが出ないため、
未分割の場合の相続税申告においても、
特別受益を考慮することは、あまりありません。
贈与が特別受益に該当しようが、しまいが、
相続税の計算において注視したいのは、
むしろ、
- 相続開始前3年以内の生前贈与加算
- 生前贈与について、相続時精算課税を選択している場合
です。


また、
生前贈与を受けて、相続時精算課税を選択している場合には、
その選択時以降の贈与は、すべて相続税課税価格に加算しなければなりません。
※ 相続時精算課税については、「相続時精算課税制度|メリット・デメリットと選択すべきケース」をご確認ください。
あとがき

民法は、
相続人間の公平性を確保するため、
故人から受けた特別受益を勘案して、
相続人間で、財産を分配することを定めています。
この特別受益については、
遺産分割協議において、問題となることも多いと思います。
また、
民法の改正により、
配偶者へ
- 居住用不動産の生前贈与
- 居住用不動産の遺贈
- 配偶者居住権の遺贈
があった場合、
それらは、特別受益の持戻しの対象とは、されないこととなりました。
上記、内容を、よくご確認くださればと思います。