贈与税配偶者控除(おしどり贈与)とは

贈与税配偶者控除とは、
夫婦間の
- 居住用不動産
- 居住用不動産を取得するための資金
の贈与について、2,000万円を限度に控除できる制度で、
おしどり贈与とも称されています。

受贈者の要件
〇 贈与年の翌年3月15日までに、
- 受贈された居住用不動産
- 受贈金で取得した居住用不動産
に居住していること
〇 その後も引き続き居住する見込みがあること
※ 見込みについての具体的期間の定めは無
〇 贈与年の翌年3月15日までに、贈与税の申告を行うこと

婚姻について
婚姻期間は20年以上で、
入籍日の20年後の応当日から、適用を受けることができます。
(1年未満の端数があるときでも、その端数は切り上げません。)
なお、
同一の配偶者につき、一生に一度だけ適用可能です。

- 内縁関係の場合
- 事実婚の場合
適用不可
(婚姻の事実が必要なため)

- 受贈後、贈与税申告までに離婚した場合
- 受贈時、別居中の場合
- 離婚していた夫婦が復縁した場合(離婚期間を、婚姻期間から除外)
適用可
ただし、
- 受贈後、すぐに離婚をした
- 受贈時に、夫婦関係が破綻していた
- 受贈時に、離婚が決まっていた
場合には、
財産の移転は、贈与ではなく、
離婚前提の財産分与とみなされる可能性があります。
そうなると、
居住用不動産の時価が、取得時より増加している場合は、
贈与者に、譲渡所得税が課税されます。
※
離婚時の財産分与については、
「離婚時の財産分与に対する税金|譲渡所得税と特例の適用」をご確認ください。

受贈財産について
受贈財産は、
金銭より、居住用不動産現物の方が有利です。
なぜなら、
不動産は、市場価格より低く評価されるため、
受贈金の2,000万円で、居住用不動産を取得するより、
評価額2,000万円(市場価格は2,000万円以上)の居住用不動産を受け取った方が、
より高額な不動産の所有権を確保できるからです。
ただし、
購入または新築したばかりの居住用不動産を受贈すると、
購入または新築するための資金を受贈したものとみなされる可能性があります。

居住用不動産について
居住用不動産の対象は、
- 国内の土地(土地上の権利を含む)
- 国内の建物
です。

- 土地のみの贈与
- 土地の一部贈与
も適用可
ただし、
土地のみの贈与の場合には、
土地上の居住用家屋は、
- 夫婦のどちらか
- 受贈者の同居親族
の所有でなければなりません。

増改築の場合、
- 外壁のみ
- 水回りのみ
というような建物の一部だけの工事は、
適用不可
用途について、100%居住用ではない場合には、
- 居住用90%以上:全部を居住用不動産とすることが可能
- 居住用90%未満:居住用部分を優先的に受贈したものとでき、居住用部分のみ適用可
暦年贈与の基礎控除との併用


贈与税配偶者控除(おしどり贈与)は、暦年贈与の基礎控除と併用することができます。

※
暦年贈与については、
「暦年贈与|メリット・デメリットと間違えない暦年贈与の方法」をご確認ください。
この場合、
贈与税の基礎控除(110万円)より先に、
おしどり贈与特別控除(上限 2,000万円)を行うこととされています。
贈与税配偶者控除(おしどり贈与)の注意点
相続の場合より税負担が重い(不動産取得税・登録免許税)

不動産を取得した場合、
- 不動産取得税
- 登録免許税
が課税されますが、
贈与の場合、
相続の場合よりも、税負担が重く設定されています。

受贈者が先に亡くなってしまうこともある

おしどり贈与の目的は、
自分の亡き後、長年連れ添った配偶者が路頭に迷うことのないように、
生前から、居住用不動産の所有権を持たせようということだと思いますが、
意に反して、
受贈者である配偶者の方が、先に亡くなってしまう可能性もあります。
その結果、
贈与した居住用不動産が自分に戻ってきてしまうと、
先の贈与自体がなかったことになり、
贈与時に負担した費用、
例えば、
- 不動産取得税
- 登録免許税
などが無駄だったということになります。
したがって、
受贈者が先に亡くなった場合の居住用不動産の相続(二次相続)についても、
よく検討してからこの適用を受ける必要があります。
税負担の軽減以外に、生前贈与を行うべき理由があるか

配偶者の居住用不動産については、
- 生前贈与を受けて、贈与税配偶者控除(おしどり贈与)を適用する
- 相続して、小規模宅地等(居住用)の特例を適用する
という選択肢があります。
相続では、小規模宅地等の特例で、
居住用宅地等のうち330㎡までを、80%減額することができ、
さらに、
相続税配偶者控除をも受けることが可能です。
※
配偶者の税額軽減(相続税の配偶者控除)については、
「配偶者の税額軽減(相続税の配偶者控除)|要件と注意点」をご確認ください。
(相続税の基礎控除もあります。)
※
小規模宅地等の特例については、下記をご確認ください。
両者を比較すると、
生前贈与を行った方が有利になるのは、
かなりの資産家である富裕層に限られます。
したがって、
税負担の軽減以外に、
居住用不動産を生前贈与すべき理由が本当にあるか
について、よく検討する必要があります。
※
配偶者と居住用不動産については、
「配偶者居住権|制度の内容と相続税申告」もご確認ください。
適用して税負担を軽減できるケース

本来の目的には合致しないのですが、
贈与税配偶者控除(おしどり贈与)を適用して、
税負担を軽減できるケースがありますので、紹介しておきます。
所得税法では、
居住用財産の譲渡所得に対して、
3,000万円までの特別控除が認められていますが、
その居住用財産を夫婦で共有していたときには、
夫婦のそれぞれが3,000万円の特別控除を受けることができます。
したがって、
★ 事前に、
居住用不動産の持ち分を、配偶者に贈与(贈与税配偶者控除を適用)し、
居住用不動産を夫婦の共有としていた場合、
売却により譲渡所得が発生したときは、
譲渡所得に対して、
上限6,000万円もの特別控除を適用できます。

ただし、
譲渡所得が出ない場合には、
意味を成さないばかりか、
贈与時に負担した費用が無駄になるため、
注意が必要です。
なお、
居住用財産の3,000万円の特別控除の適用を受けるためには、
土地だけでなく、
建物も贈与しておく必要があります。
贈与税申告にあたって
贈与の事実認定

2016年以降の贈与税申告では、配偶者控除の適用を受ける場合の添付書類が、登記事項証明書の代わりに贈与契約書等の写しでもよいこととなり、その適用にあたって、所有権の移転登記が必須事項でなくなりました。
ということは、
所有権移転登記の有無ではなく、
その財産の実質的な支配関係によって、
贈与の事実認定が為されることになったということです。
したがって、
贈与の事実を否認されないようにするためには、
所有権の移転登記の有無にかかわらず、
受贈者が、
その財産を実質的に支配している実態を作っておく必要があります。
具体的には、
その不動産にかかわる経費、
例えば、
- 固定資産税
- 修繕積立金
を、受贈者が負担することなどです。
※
上記以外の添付書類については、
国税庁のホームページをご確認ください。
当初申告要件の廃止

2011年の税制改正で、贈与税配偶者控除(おしどり贈与)も、当初申告要件が廃止されました。
したがって、
最初の申告で適用を受けていなくても、
- 更正の請求
- 修正申告
の際に、適用可能となりました。
相続税申告にあたって
相続開始前3年以内の生前贈与加算

贈与者の相続開始前3年以内に、居住用不動産または取得資金の贈与を受けた場合でも、おしどり贈与特別控除額の部分(上限 2,000万円)の価額は、贈与者の相続税課税価格に加算する必要はありません。
※
相続開始前3年以内の生前贈与加算については、
「相続開始前3年以内の贈与と相続税」をご確認ください。
特別受益の持戻しと遺留分の計算

特別受益の持戻し免除

平成30(2018)年7月の民法改正で、
生前、配偶者に居住用不動産の贈与を行った場合、贈与者の相続にあたって、その贈与分を特別受益として持ち戻さなくて良いこととなりました。
※特別受益については、
「特別受益|民法の定めと税法の定め」をご確認ください。
遺留分の計算

令和元(2019)年7月施行の税制改正で、
遺留分を計算するにあたっても、贈与税配偶者控除(おしどり贈与)の適用分を、除外して計算することができるようになりました。
※遺留分については、
「遺留分と遺留分侵害額請求」をご確認ください。
これらは、
配偶者の相続後の居住用不動産の確保を目的とし、
さらに、
配偶者は、
遺産分割において、居住用不動産以外の相続財産を分け合うことで、
相続後の生活資金をも、確保しやすくなりました。
あとがき

贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)については、
適用を受ける機会はそれ程ないかとも思われますが、
上手に利用すると、
生前に、配偶者の生活基盤を確保してあげることができます。
また、
適用して税負担を軽減できるケースも紹介していますので、
要件や注意点について、ご確認くださればと思います。