
遺言は、
遺言者と受遺者双方の合意を必要とせず、
遺言者の意思表示だけで、法的効果が生じ、遺言者が亡くなった時に、その効力が生じます。
また、
遺言を行う時点で、
意思能力があり、満15歳以上
であれば、誰でも、遺言を行うことができます。
遺言書の要式と遺言事項

遺言は、
その要式を備え、
遺言事項として法的に認められたもののみ、
遺言としての法的保護が、与えられます。
要式は、複数認められていますが、
実務では、普通方式遺言の
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
が一般的です。
法的に認められた遺言事項の中で、相続税と深く関係がある事項は、
- 認知
- 遺贈・寄附行為
- 相続人の廃除・廃除の取消し
- 相続分の指定
- 特別受益者の持戻し免除
- 遺産分割方法の指定
- 遺産分割の禁止
- 信託の設定
が挙げられます。
※
認知、相続分の指定については、
遺贈については、
特別受益者の持戻し免除については、
をご確認ください。
※
遺産分割の禁止については、
遺言によって、
相続開始時から5年を超えない範囲で、遺産分割を禁止すること
が認められていますが、
遺産分割ができないことで、遺産は未分割状態となり、
相続税の優遇特例を適用することができなくなる
というデメリットがあります。
※
遺産が未分割の場合のデメリットについては、
をご確認ください。
自筆証書遺言と公正証書遺言
自筆証書遺言

自筆証書遺言を作成する際の注意点は、下記の通りです。
1.自筆すること
日付も、氏名も、すべて自筆します。
パソコンで作成したり、
代筆してもらったりした場合は、
無効になります。
ただし、
財産目録は、自筆以外でも構いません。
2.財産目録を添付する場合は、各頁に署名・押印すること
3.日付は、年月日を記載すること
- 令和2年12月
- 令和2年12月吉日
などは、無効になります。
自筆証書遺言は、
第三者の関与が不要であるため、
- 相続人が、遺言書の存在に気が付かないまま、遺産分割を行ってしまう
- 相続関係者によって、書き換えられたり、隠されてしまう
というリスクを抱えています。
そこで、
令和2年7月10日より、
法務局で、自筆証書遺言を保管してもらえるようになりました。
ただし、
この制度により、
遺言の内容の有効性が、保証されるものではありません。
また、
法務局で保管をしてもらうためには、
法務省令で定める様式に従って、自筆証書遺言を作成しなければならず、
加えて、
遺言者が、自ら法務局に出向いて保管の申請をしなければならない
という短所もあります。
しかしながら、
検認不要で、
(目的額がいくらであっても)1件につき3,900円という手数料の安さであり、
これは、短所を差し引いても、なお、余りあるメリットですので、
今後、その利用は、確実に増えていくと考えられます。
※
申請手続きや予約などについては、
法務局ホームページ「法務局における自筆証書遺言書保管制度について」
をご確認ください。
公正証書遺言

公正証書遺言は、
公証人役場で、証人2人以上の立会いのもと、公証人に、遺言内容を口述し、作成してもらう
遺言です。
- 原本
- 正本
- 謄本
が、1通ずつ作成されますが、
そのうち、原本は、公証人役場に保管され、
遺言者には、正本と謄本が、交付されます。
なお、
- 未成年者
- 推定相続人およびその配偶者・直系血族
- 受遺者およびその配偶者・直系血族、
- (その他一定の者)
は、証人になることはできません。
※
推定相続人とは、
相続が開始した場合に、相続人になることが推定される者
をいいます。
また、
公正証書遺言の作成手数料は、
遺言の目的となる金額をもとに、
定められています。
遺言公正証書の作成手数料は、遺言により相続させ又は遺贈する財産の価額を目的価額として計算します。各相続人・各受遺者ごとに、相続させ又は遺贈する財産の価額により目的価額を算出し、それぞれの手数料を算定し、その合計額がその証書の手数料の額となります。
例えば、総額1億円の財産を妻1人に相続させる場合の手数料は、4万3000円です(なお、下記のように遺言加算があります。)が、妻に6000万円、長男に4000万円の財産を相続させる場合には、妻の手数料は4万3000円、長男の手数料は2万9000円となり、その合計額は7万2000円となります。ただし、1通の遺言公正証書における目的価額の合計額が1億円までの場合は、1万1000円を加算すると規定しているので、7万2000円に1万1000円を加算した8万3000円が手数料となります。次に祭祀の主宰者の指定は、相続又は遺贈とは別個の法律行為であり、かつ、目的価格が算定できないので、その手数料は1万1000円です。作成された遺言公正証書の原本は、公証人が保管しますが、保管のための手数料は不要です。
日本公証人連合会ホームページより引用
※
遺言者が、病気等で公証役場に出向くことができない場合には、
公証人に出張してもらうことも可能ですが、
手数料1.5倍+遺言加算となり、
旅費・日当も、請求されます。
遺言の撤回

遺言は、遺言者の意思により、いつでも、法的理由なしに、撤回することができます。
そして、
遺言者が持つ、遺言撤回の権利は、放棄できない
こととされています。
つまり、
一度行われた遺言に対して、
遺言者と受遺者の間で、
その遺言を撤回しない約束をしたとしても、
その約束は、何の効力も持ちません。
遺言の撤回は、遺言により、行います。
この場合、
前の遺言の方式と同じ方式をとる必要はなく、
例えば、
前の公正証書遺言を、後の自筆証書遺言により、撤回することもできます。
前の遺言と、後の遺言とで、その内容の一部が抵触する場合には、
その抵触する部分について、
前の遺言が、後の遺言によって、撤回されたものとみなされ、
その部分については、後の遺言の内容が、有効となります。
また、
遺言者が、故意に
- 遺言書を破棄した場合
- 遺贈の目的物を破棄した場合
には、
その遺言は、撤回されたものとみなされます。
相続税に与える影響(デメリット)
配偶者の税額軽減(相続税の配偶者控除)との関係

相続税では、
配偶者の税額軽減(相続税の配偶者控除)を適用すれば、
少なくとも1億6,000万円
(配偶者の法定相続分が1億6,000万円を超える場合には、法定相続分)
の控除を受けることができ、
相続税という観点からは、
配偶者に、遺産を、配偶者控除額の上限まで取得させる
ことが、最も有利となります。
※
配偶者の税額軽減(相続税の配偶者控除)については、
をご確認ください。
したがって、
配偶者の取得財産を、その控除額の上限より少なくなるように、遺言した場合には、相続人全体に、不利益を生じさせる
ことになります。
ただし、
故人の配偶者が、
故人の相続(一次相続)後、それ程遠くない間に亡くなることが想定される場合、
故人の相続で、
配偶者が、控除額の上限まで、財産を取得してしまうと、
その配偶者の相続(二次相続)での相続税が多くなり、
一次相続と二次相続を併せて比較した場合、
配偶者に、多くの財産を相続させた方が、
相続税の負担が、大きくなることも考えられます。
小規模宅地等の特例との関係

相続税には、
- 故人
- 故人の生計同一親族
の
- 居住用
- 事業用
- 貸付事業用
宅地等について、
財産評価額を減額できる、小規模宅地等の特例が設けられているため、
その適用対象宅地等を、適用対象者が取得した方が、
相続税は、少なくなります。
※
小規模宅地等の特例については、
下記をご確認ください。
したがって、
適用対象宅地等を、特例の適用を受けられない者が取得するように、遺言した場合には、相続人全体に、不利益を生じさせる
ことになります。
裏を返せば、
遺言によって、
★ 相続税の各種特例を勘案して、特例対象財産を、適用対象者に取得させるように遺言を行えば、相続人全体に、恩恵を与えることができる
ということです。
納税との関係

金融資産を、相続人等のうち、特定の者に、偏って取得させるように遺言した場合には、他の者が、納税資金を自ら用意しなければならなくなる
というデメリットがあります。
したがって、
遺言にあたっては、
それぞれの納税資金の確保、
例えば、
固有の金融資産を所有している者には、金融資産以外のものを取得させる、など
を考慮することが、円満な相続に繋がるものと考えます。
あとがき

遺言の目的は、
遺言者の最終の意思を尊重し、
遺言者が亡くなった後に、その意思を実現すること
とされていますが、
- 特定遺贈
- 包括遺贈
が適法に放棄された場合には、
共同相続人において、自由な遺産分割が可能になり、
遺産分割は、
遺言による手続きから、遺産分割協議による手続きに移行します。
また、
遺言が、すべての相続財産を対象にしていない場合には、
その対象にされていない財産については、
共同相続人の協議により、遺産分割を行わなければなりません。
※
共同相続人の協議による遺産分割については、
をご確認ください。
なお、
遺言に従った遺産分割において、財産を取得するはずだった者が、
共同相続人の協議による遺産分割において、財産を取得しなくなった場合でも、
財産を取得するはずだった者から、財産を取得することになった者へ、
贈与が行われたものとはみなされません。